[SummerVacation]


自分は今、とても、とても反省している。

たとえここが現代の日本でなかったとしても。
やっぱり、自分の寝床以外で横になって爆睡するのは、とってもよくない事だ。

いくら平和なところだって言っても、そんな呑気な事してたから……、
よくわからないオジサンに声かけられちゃったんだと、思う。多分。


二度目、瞳を閉じてまどろみに身を委ねて。
それから随分の時間が経ったようで。

瞳をあけてみれば、すっかり周辺は薄暗くて、
水平線の向こうが赤く、それ以外は深青へ、そして黒へと近づきつつあって。
太陽の光っていうのは案外体力使うんだよねえ、なんて妙な実感を持った。
たくさん、浴びたもんね。

……駄目だ。現実逃避ちょっとだけしてたけど目の前のオジサンすごい喋ってた。

多分、うん、多分こう、南米？イタリア？…どっちでもいいか。
そんな感じの情熱的な雰囲気なのは何となーくわかるんだけど。
動きとかなかなかアグレッシブだし。

手をぱたぱた振ってみる。首とかも一緒に横に振ってみる。
ちゃんと口も開いて、この世界の言葉がわからない事もアピールしてみる。

あっ　駄目だ　なんか駄目な雰囲気がある。
っていうか多分こう私のリアクションいまいち通じてないよねきっと。

ああ、そろそろ私「この世界の言葉　理解できません」みたいな言葉、誰かに教えてもらうべきかな……。
でも誰にどうやって頼もうかー……、ギルド内だと楽でいいんだけどな。オウ君に聞いてみようかなー。


——そうして、また、現実逃避に目線を遠くへと向けて。
今、あきらかに考える必要のない事を、考えだしてしまった……








結果が、外真っ暗な現状これです！！！

うわああ。もう本当真っ暗だよ！どうしよう！


何とかこう色んな長い話とか、いや、話じゃないんだけど、リアクションとか手振り身振りで、
仲間が近くにいる事をわかってもらおうとしたりとか、そろそろ帰らないといけない事をアピールしてたんだけど、
現実逃避をしていたせいもあって、随分とまた時間が経っていた。

慌ててパレードが行われていた場所へと戻ろうとしたけれど、やっぱり昼と夜の景色は全然違う。

たしか、こっちの方向だと思ったんだけど、って行った道はどんどん茂みが険しくなってるし、
前が見えなくって木の茂みにぶつかっちゃうし。

駄目だ。どうしよう。戻れなかったらどうしよう。
マァムブに行けなくなったら、もうあんな運良い出来事、二度はない。

ああ、ヤバい。泣けてきた。どうしよう。どうしよう。どうし——……


光が、見えた。
走る。
ひたすら走る。
暗闇の中、眩しいものに縋るように手を伸ばす。






道が。開けた。






開けた場所は、何てことない、パレードの会場であった場所で。
先ほどの私の迷いなど何もなかったかのように、何の変化もなくて。

カミユ「ジュリ」

私の姿を見つけ、声をかけてくれたカミユ君の声も、いつも通りで。
何だか途端にほっとしてしまって、力が抜けてしまって、泣くのも忘れてパニクってたのも馬鹿みたいで、
泣きそうになってしまって、……カミユ君にちょっと心配するような表情させてしまって。

なんでもないよ、って。笑顔で首を振れば、信じてくれて、…よかった。
流石に、みんなとはぐれて寂しくて泣きそうだった、なんてこの歳じゃ恥ずかしくて言えないしね。

緩く頭を垂れて苦笑いを零せば、カミユ君は私の頭へと手を伸ばし。
撫でられる？なんて、思ったのはちょっと期待したのかな……でも、そんな事はなくて。
ちょい、ちょい、と何かを摘む仕草をしたから、上を見上げれば、その手には葉っぱが数枚。

うわあああ、私もしかして茂みにぶつかった時に葉っぱつけたままだった？！

もう本当情けない。恥ずかしい。絶対今顔赤い。
別の意味で泣きそうになっている私にカミユ君は変わらぬ綺麗な微笑みで……

よりにもよって、私に、手なんて差し出してくれちゃったりするんだから、
……暫く、顔の赤いのは消えそうにないと思う。








樹里「……」
カミユ「……」

言葉が通じない者同士で、会話なんて長くはもたない。
夜の海の波の音や、二人の足音や。そんなものばかり、耳に入っていく。
浮かぶ月や、その月の光にきらきら光る波や、そんなものを目線で追いかけて、だから少しばかり歩みは遅い。

私の手に重なるカミユ君の手。
気になって仕方がない。仕方がないからこそ、カミユ君の方を見れない。
月あかりのした、海風に髪を揺らすカミユ君とか絶対綺麗なのに！綺麗なのに！

いくらもったいない、っていう気持ちはあっても、それ以上に気恥ずかしい気持ちはあって。
多分、夜の海で、二人きり、みたいな状況が悪いんだと思う。何か、変な意識とかしちゃって。

手汗とかかいてないかなあ。うわあ、なんかヌルッとするとか思われてないかなあ。


やっぱり何か話した方がいいかな、なんて顔をあげて。
ぱっ　と辺りが一瞬明るくなる。


”ドンッッッッ！！！！！！”


夏の夜空を彩る、満開の花。ちょっと遅れてやってくるズシリとした肌で、体で感じる重い音。
弾ける、花火が視界に入って、その足は思わず立ち止まる。

わー…花火だー…この世界にもあるんだ花火。
なんだろう、嬉しい。ほっとする。何だろう。不思議な気持ち。——自然と笑顔になる。

不意に、ぎゅ、とカミユ君の手に力が篭るのを感じて隣を見れば、……何だか、警戒した、様子？
ああ、そっか。花火、知らないんだ。
……あれは危険なものなんかじゃない、楽しむものなんだって伝えなきゃいけないけど、
私が知ってる、この世界の”言葉”は本当に本当に少なくて。

樹里「……はな　はな！」
カミユ「花？」
樹里「…はな！　……い。ゑい。ゑ　はな！」

言葉にあわせて、あいている手をきらきらっていう感じで動かしてみたりするけれど、かなり不安。
知っている言葉で、花火を示すものなんて、……つい先日、カミユ君から教わった、花、しかなくて。

実際に、見てもらえば、きっと伝わるはずだと。
逃げたりされないように。握っていた手を一旦解いて、ぎゅ、と腕に掴まるみたいにして組みなおして。


”ひゅるるるるぅぅ———”


花火の、上がる、その音と空に昇っていく火花の線を指差し、見て、と訴えて——。


”ドンッッッッ！！！！！！”


二発目の花火が上がる。また空が明るくなって、遅れて心臓に響く音が鳴る。
チラリ、と様子を伺えば散っていく花びら——火花の、後を、カミユ君の瞳は追いかけていて——

カミユ「*****　ジュリ」
樹里「……？」
カミユ「綺麗」
樹里「きれい？」

もう暗くなってしまった空を指差すカミユ君は、微笑んでいて。私が紡いだ言葉に、一つ、頷いて。
ああ、よかった。わかってもらえた。もう怖がってない。
もし、もし私とカミユ君と、……同じような感想を抱けるのだとしたら、嬉しいんだけど、合ってる、のかなあ。


ううん。きっと。……こんな夜に見た花火なんだから。
感想は、二人一緒だって。”綺麗”だって思って口にしてるんだって。そう思えたら嬉しいから……都合よく、解釈しちゃおう。




こんな、ステキな夜ぐらいは。












※この日記は

ENo.333 カミユ・ナダ
ENo.1050 エロイ・アナヤ・ヒメネス

お二方の協力のもとで書かせていただきました！（敬称略！）

赤くなった頬は鼻の頭。
腕や足の辺りをさすっている。
とはいえ、テンションはそこまで低くはなさそうだ。

トテトテとペンギンがやって来ました

※聞こえるのはペンギンの鳴き声ですが、脳内には人間の言葉がとどきます。

樹里がごめんなさい、というとぱっと顔を明るくして、わしゃわしゃと頭を撫でる。

フライバイは全身でよくできました、と表現してから　
キッチンのすみからなにやら　手で挟むようにして5つのキャンディを取り出してきて、
その包みに描かれた絵を見せる。

樹里はキャンディを受け取るだろうか？いずれにせよ、一度それらを机の上に置き、
塩とキャンディをひとつだけ手にとってまた樹里に向かい合う

そうして既に樹里の知っている数字も交え、ちょっと意思疎通を試みた後にもう一度手を振り上げる。
手を振りかざしたまま少し待って、『ごめんなさい』と言う言葉を待つ。
振り下ろす前に思ったような言葉がかえってくればまた頭をなでてもうひとつキャンディを渡し、
言う事が出来ない・もしくは間違った言葉がかえってくれば、
そのまま今度は少し痛みを感じる程度に振り下ろすだろう。

…
そうして、朝食が出来上がるのを待つ。

取り出した櫛をジッと見つめる
樹里の行動からなんとなく理解する

ててっと樹里の方へ足を向けた

「いただきます」
——誰かに、習ったのだろうか。
いや、当然自分以外にも教える人もいるだろう。
少しの納得と、それ以上の嬉しさを感じた。

……この調子なら、もう暫くしたらもっとおしゃべりもできるだろうか。
そんな楽しい未来予想図と共に。

嬉しそうに足を揺らすジュリを見て、リレッタも笑みを深めた。
けれど、何より———

「……おいしい？」
そう言って、ジェスチャーを返すジュリに

……満面の笑みで抱きついた！

みんながこれを着てるところがあるんだーと後ろの回ったりちょろちょろする

同じようにぺこっとお辞儀をする、挨拶の仕方は似てるなーと思いながら

わくわくしながらちょっとしゃがんでみたり

しおりと樹里の顔をゆっくりと交互に見ながら、差し出されたそれをつと手に取る。

相変わらず樹里の言葉はわからないが、向こうもこちらの理解を確かめながら話すような気配がない。
そのまま曖昧に目を瞬かせながら聞いていたが、ふと樹里が頭をさげ。
一言。

樹里に今一度見せるように、受け取ったしおりをわずかに掲げる。
それをそのまま自分の胸元へ引き寄せて、

意味は伝わらなくとも、雰囲気で気持ちは伝わるだろうか。
問いかけるように瞳を覗き込み。

…

サマーバケーションに人々の沸く、夜。
フリント領のアフタヌーンパレードを終え、クリスにグラス一杯の酒を振る舞われたカミユは、帰りしな、樹里を海辺に誘った。
花火が上がり、はな、という言葉を繰り返し、眩い夏の夜が過ぎてゆき…
カミユは慣れない酒のせいもあって、いつもよりよく笑い、樹里が理解できないとわかっていてもよく喋った。
やがてそろそろ戻らねばという時分になり、カミユは海辺をマァムブに向けて歩き出そうと樹里を促した。

海はぽっかりと浮かぶ月に照らされ、おぼろげな光の道を作り出していた。
寄せる波は白いレース模様を砂浜に描いては、また真っ暗な海の懐へと戻って行きを繰り返している。

カミユはフリント領の祭りで借りていた水兵服を脱ぎ、くつろいだ夏の装いをしていた。
穿きものの裾を折り、柔らかな作りのサンダルを片手に持っている。足が濡れてもかまわないように。

互いに言葉の通じない中、二人はそれぞれ適当な単語を言い合って遊びながら歩いていたが、ふと、カミユがその歩を止めた。

ぽつり、まだ少し耳の赤いカミユが言う。樹里がその言葉を理解することは難しいだろう。それでもなお、カミユは続ける。

カミユの両手が樹里の肩に置かれる。薄い布越しに感じるその手は、抜けきらない酒の為か、熱いだろう。

　
　言葉が分かろうが分からなかろうが、結局五月蝿いもんは変わらないのだが。
　もはやBGM程度にしか思っていない……のかもしれない。

　
　少し嘆息しながら、バツが悪いように話し始めた。

名前。辿々しくも意図が伝わり、名前であろう言葉を聞き、噛み締めるように呟く。

差し出されたぱくぱくを見て、しかし表情が曇った樹里の表情を伺う

彼女の憂いを拭おうと、できるだけ笑顔になってみせ
受け取ろうと言うように、開いた手のひら、分厚くごつごつとしたまめだらけの手を差し出す。

樹里がぱくぱくをくれたなら、それを大事そうにポケットにしまいこむと、
今度は意を決して手のひらを伸ばし、逃げなければ樹里の頭を力強くくしゃくしゃとなでる

少女が首輪を手に取り、細い指でくるりと子狼の首に回すと金具をとめていく———不思議な響きの異国の歌を口ずさみながら。

それはリオンにとって、人生で一番神聖で大事な儀式だった。
適度な強さできゅっと首元が絞まる感覚に、言い知れない恍惚感を覚えながら少女が首輪を嵌め終わるのを酷く緊張して待ち。

首輪を嵌められたこの瞬間から、自分はこの少女のものとなるのだ。
これからは彼女に精一杯仕えて守り、いっぱい役に立てるよう頑張ろう。
そうすればこの少女も自分を従順で賢い良いペットとしていつまでも可愛がってくれるはずだ。


————そう研究所の先生が言ってたから。


そんなことをリオンが考えているとは露ほども思っていないであろう少女が無事首輪を付け終わったなら。

子狼が立ち上がり、顔を見上げて小さく吠えると元気よく走り出して少女の背後にある大木をくるりと一回りする。
そして再び少女の前に戻ってきた時の姿は、子狼ではなく獣の耳と尾を生やした銀髪に蒼い瞳の少年に変わっていただろう。

嵌めてもらった首輪に軽く手を触れながらそう切り出し。
たとえ上手く話せたとしても言葉のわからない少女に通じるわけがない。
言葉がわからなくても気持ちは伝えられるはずだと信じたいのは、単に自身の思い込みによる願望にすぎないという自覚もあった。
しかしそれでも、とリオンは言葉を続ける。

言いながら縋るような瞳で少女の瞳を真っ直ぐに見つめ。
少女は拒絶するだろうか？
こんな素性の知れない人狼の主になるのは嫌だと、その細い指で再び首輪を毟り取ってしまうだろうか。

とりあえず名前を教えてもらわなければと、自身を指差して「リオン」と三度ゆっくり繰り返して言い、次に少女を指差して首を大きく傾げてみる。

キミ　ノ　ナマエ　ガ　シリタイ

懸命にその不必要を訴える娘に、此れまでの調子でるる、と喉を鳴らす。

目を丸くする様子には、興味深そうに目を細めて応じ、
目線が横に投げられれば、些か愉快そうにまた喉がくるると転がった。

気になる、眺めて減るものでもない、気にしないと続ける。

満足そうに二度名前を呼んで、ぱたぱたと尻尾を揺らす。
‥が、小難しそうな顔にぶつかるとぱたりと動きは止まった。
得手不得手の話だろうか、と耳を傾けるも、どうやら聞こえてくるのはそうともいえない按配。
片方の眉根だけを寄せながら、ひとつ首を傾げた。

ごはんもおかずも美味しかったのだから作って作れぬことはないはずだ。
なんだか無駄に自信満々に言ってのける。

絵面を想像しているのだろうか。
一瞬だけ視線を中空に走らせると、少しだけ噴出した。

サムズアップの意味は通るようだ…
言語以外は…案外そこまで差が無いのか…？

ふむ、相変わらず何を言ってるのか判らないが名前を呼ばれたのは確かか…
紙に何かを…あれはペンなのか…
少し訝しげな顔をして様子見
棒人間が…バンザイの上に”？”
どういう意味だろう…
そうかっ！

いや、これは違うな…難しい…トレースしてみれば良いのか…
口を開いて…（半開きの口？）
近寄って…（樹里の方に近寄り）

ちょっと近い気もするが顔を顔に近付けてそんな事を言ってみた

顎に手を当て、考え込むようにしてから、少しだけ笑みを浮かべる。

何が面白いのか、唐突に馬鹿笑いを始める。
止めろと言わない限りいつまでも笑い続けそうな勢いだ。