「くそっ…、どういうことだよっ…、これ……」
「酷い具合にエラーコードまみれなの。やれる限りのことはしたけど、今は光の正体はつかめそうにないなのっ」
「何とか他に調べる術は見つからねぇのか？」
「それは難しいなのっ。正義の力は一見、光の属性の力のようにも見えても実際の本質はそれとはまったく異なるもので構成されているのなの。これまでに収集したデータを見ながら調べては見たものの、該当するものは何一つ見つからなかったなのっ。残念だけど…、今回はルーディの納得のいく収穫はゼロなの……」

正義がメルンテーゼで休んでいる間、俺は生まれ故郷のとある世界に一度戻った。正義の身体から発した、あの光の正体について調べる為である。
俺の生みの親である一人の少女と共にこれまで彼女が収集してきたデータや正義から採取した少量の血液、俺の記憶からコンピュータにコピーした情報をもとに、あの光の正体について調べていた。
出来ることなら正義を連れていきたかったが、ここは正義のもといた世界やメルンテーゼと違って次元が恐ろしい具合に狂ってる。俺がここと別世界を行き来できるのも、それに適した身体だからだ。
そのため通常の人間がこのような場所へ訪れることは困難。いくら俺の生成したゲートでも、下手すれば正義は次元の狭間に迷い込む恐れがある。
こうして調べてはみたものの…、得られたものはなし。正義に持っていける有益なものが何一つないという、申し訳ねぇ結果になってしまった。

「あとは正義自身が、何か知ることが出来るか否かなの。あの光はまだ正義の中に眠っているはずなの…、正義が自ら光の正体を知ることさえ出来れば……」
「…簡単にそれが、うまくいきゃぁいいんだけどよぉ……」

とまぁそんなことを言っていたんだが…、この時の俺たちは正義が夢の中で光の正体らしきものと接触していたことをまだ知らず、俺は収穫を得られぬまま自分の身体のメンテナンス作業に入ることにした。
いちおう俺の身体は、正義の強さの変化に応じて一定の強さの成長を得られるように出来ている。しかし正義にあの光が宿ってから、こちらの身体に何か影響は出ていないか調べる必要が出てきた。
突然の急激な能力変化はこちらの強さの成長にも支障が出る恐れがあり、もし正義が一瞬で俺を超える力の強さを確立した場合、俺の強さの成長は正義の強さに応じて急激に増加する反面、身体を構成するマトリクスに対する負担が大きくなる。
最悪の場合はマトリクスの一部に破損が生じ、俺の身体の強さは正義の成長に応じて成長しなくなり、こうなっちまえば修復には長くて一週間は要することになる。
こんな面倒な要素があるものの、パフォーマンス自体は高いぜ？俺の身体。

「ところでよぉ…、以前までこの部屋にあった俺専用のカプセルは何処にいったんだ？」
「それが最近、カプセルを壊しちゃったなのっ」
「はぁっ！？壊したぁ！？」

おいおい…、メンテもあるから一日残れと言われて来たのに、肝心のカプセルがねぇとはどういうことだっ！？
カプセルん中で寝てる間に隣でコンピュータでぽちぽち作業する環境だったはずだよな！？つーか前にメンテした時もそうだったぞ！

「まぁ…代わりのものなら用意したなのっ。まずはいつものようにそこへ寝るなのっ」

指をさすところには、ご丁寧に診察台のようなものがあるじゃねぇか。
手術する訳じゃねぇのに…、まぁいいけど。とりあえず俺はデフォルトの服装をパージして、診察台の上に寝た。
メンテの時は一応スッパになる必要があるという、これもまた面倒…とまではいかねぇけど、カプセルではなく診察台の上となると…やっぱ違和感がでけぇ。
そりゃそうだ…、あのカプセルに入らず、診察台の上で寝てるんだから。

「うへぇ…、やっぱ診察台かてぇなぁ」

電気治療器の電極みてぇなもんを身体にぺたぺたと貼られていき、その数が多いもんだから…貼ればはるほど何か身体が重く感じる。
全て貼られた後には隣のコンピュータでは更新作業が始まる。カタカタと鳴るキーボードの音を耳にしつつ、俺はただ診察台の上で寝ていた。
カプセルで寝るのと違って、これまた随分と面倒なもんだ。これでメンテ終わるまで寝てろと言われても寝心地が悪い。
正義は今頃、宿のふかふかのベッドで寝てんだろうなぁ…。思えばあいつを元いた世界に戻すのを忘れていた。つーか、正義も忘れてたよなっ
まぁでも…あいつも無事ならいいんだけど…、正直心配である。あの戦いの後、あいつは体力ごっそり持ってかれたみてぇだし。
あの調子で一人で宿まで行けるかどうかも怪しい…、本当に大丈夫なんだろうか……。

「正義のことが気になるなの？」
「気になるに決まってんじゃねぇか。メンテ終わったらすぐにでもあいつのところに戻りてぇよっ」
「うふふ…、その様子ならこの先も安心なのっ」
「当然…、俺は正義の相棒だぜっ？ぶっちゃけその位置は誰にも譲れねぇ…、例えあいつに彼女が出来てもだ。彼女は彼女、相棒は相棒だっ」
「正義はもう彼女出来てるなの？」
「最近気になる奴がいるのは確かだよっ。あいつにもそんな出会いの時が来るとはねぇ……、すげぇいい感じみてぇだしっ」

まぁ…あいつに彼女が出来るのはいいことだ。でもなんっつーか、やっぱ焼きもちって焼くもんだなっ。
いちおう俺はその女よりも前から正義とは関わりを持っているし、なおかつ相棒として共に活動もしている訳で…、その俺からすると正義から好きな女の話題が出るとどうもこう…何かがこみ上げてくる。
たぶん、俺があいつの弟だったり妹だったりしても、同じものを抱いてるかもしんねぇ。自分にとって親しく思う存在が他の奴と何かいちゃいちゃしてると、嫉妬とかそういうのもするもんだよなっ。

「まぁでもあれだよっ…、あいつが将来結婚するとしてもだよ…？俺はあいつと雷兄弟みてぇな関係でいてぇんだよっ…、あいつは未だ俺のこと…、たまに変態って…言うけど……」

話しているうちに俺に迫る眠気。こうしてメンテしてる間は、すぐに眠気がくるもんだ。
ゆっくりと瞼を閉じていき、気がつく頃にはぐっすりである。こんな診察台の上ではあるけれども、寝てしまえばあっという間だ。
俺が眠りについてからもメンテ作業は続き、大体俺が目を覚ます頃にはメンテは終わっている。まぁ…、大体は些細な不具合の修正とか機能追加が殆どなんだけれども。


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そんな感じで一日終えてもう翌日…、俺の身体にも特に問題は見られなかったみてぇだ。ついでに調整もしてもらって、身体は以前よりも軽くなった気がする。
俺はメルンテーゼに戻れば、正義を探しに街をふらつく。正義は何処かの宿で一泊してるだろうし、街ん中を探してればそのうち見つかるだろう。
とまぁそんなことを考えてるうちに、ちょうど遠く宿から出てくる正義をあっという間に確認した。これでも視力は高いほうだ…、遠くからでもよくわかるさ。

「んっ……？」

よく見ると…、正義の隣に誰かいる。女だ…、しかも緑髪の眼鏡っ子で、なかなかにぼいんちゃん。
あれがあいつの言っていたリフィって女か…、確かに話していた通りのハイスペックの見た目してるじゃねぇか…。
俺は物陰に隠れつつ、二人の様子をこっそり拝見。あのいちゃいちゃの仕方…、恋人同士じゃねぇか！？つーかもう、そこまで進展してんの！？

「それじゃあ…、行ってきますねっ。正義さん…、ホントに無茶は駄目ですからねっ？」
「あぁ…、わかってるよっ。お互い、がんばろうなっ……」

あの二人がそんなことを言った後かーらーのー…、…くそっ！二人とも爆発しろＹｏ！
帰ってきて早々こみ上げてくるこの感じをどうしてくれよう……。
とりあえず俺は、正義に感づかれないように物陰に隠れつつ接近する。

「さてと…、俺もみんなと合流しないとなぁ……」
「随分とお楽しみだったみてぇじゃねぇか…、えぇ？」
「—っ！？」

正義がびくっと反応し、後ろを振り向けばそこにいるのは…俺だっ。
那珂ちゃん…じぇねぇや、ルーディ知ってるよっ？正義が宿からあの女と一緒に出てきたり、何かその後もいちゃいちゃしてたのも。

「帰ってたのか…」
「帰ってたに決まってんだろ、馬鹿ッ！人がせっかく調べものに行ってやったってのに当のお前は女とエキサイトかよっ！」
「否定はしない、確かに昨日はリフィと一緒に一晩同じ部屋にいた。でもそれは—」
「助けられたのがきっかけで急接近して、そして互いに想いを打ち明けて、エキサイトかーらーの、白い打ち上げ花火だろ！？」
「…全部、的中ですっ。…それより、何かわかったのか？」
「…サーセン、結局何も得られませんっした……」

膨大なデータベースでさえ該当するものが見当たらねぇ始末だったさ…、うん。
結局メンテ行って帰ってきたのと全然かわんねぇよっ、畜生！笑いたきゃ笑えっ！

「そうか……、ルーディの実家の力でさえ情報がつかめなかったか。…しかしまぁ、俺の光に関わる有力な情報なら…、実は可能性のある情報を得てるんだよ……」
「えっ……？」

そしてその後、俺は正義の口から、正義が夢の中で光の正体らしきものと接触していたことを聞いた。
調べ損からのこの仕打ち…、つくづく俺をズタボロにしてくれるじゃねぇか……。
まぁ…その日は正義にカレー作ってもらったおかげで元気回復だけどなっ。
久しぶりの正義のカレー美味いよ……

なぜか急にチラ見でそちらの荷物などを確認しだした。何やら思考が先走っているようだ。

アクスをぶんぶん振り回しつつ

ダダダッ　と走り去る。

アクスをぶんぶん振り回しつつ