一時的に一緒に戦った人達と別れ、一人帰路へ。

「……嬉しそうだね？」
「そう、見えますか」

肩から仔リスのハルニレに話しかけられ、言葉としては問いで返すものの
表情が全てを語っているだろう。
一気に参加する様になって、最初に旅を始めた3人以外にも仲間は増えたし
それ以外に、必要があれば一揆参加者同士助け合ったりしながら色んな人達と触れる機会は多くなった。
人と接するのは苦手だと思っていたけれど、意外とどうにかなるものなのか
今のところうまくやれている…と、思うし、新しい出会いは楽しいのも事実だ。

それでもやっぱり。

「あ、見えてきたよ！」

中間地点であるキャンプが見えてくれば、そこにはもう既に何人かが集まっている。
見知った顔が見えれば、自然と肩の力が抜け、笑みがこぼれる。
きっとこれからも沢山、一揆にともに参加する人は増えるだろうけれど。
この仲間は自分にとって特別なのだろうと。クローシェは確かに思った。



*


とはいえ。のんびりとこの間の様にイカ焼きパーティーをしてる暇はなかった。
それぞれが持ち寄った情報を整理した処、あっという間に仲間たちはそれぞれの
目的地へと向かってしまう。ぽつりと、残されたのはマコト、トウカ、ルド、そしてクローシェだった。
残ったと言う事は皆、目的は特段無いのだろうか。

「あの。皆さんは何処か行かれる場所は、ありますか？」
「……もし、どなたも無いようでしたら、私は、城の方に行きたいなと思っておりますわ」

手をあげ、もし誰も無いならば護衛を頼めないだろうか。……そこまで思い、言葉にしてから
はたり、と気づく。……自分はこんな風に、誰かに対して頼み事をすんなりと出来る。
こういった時に自分から意を言えただろうか、と。
見まわし尋ねれば、トウカが自分と同じ目的だったらしい。瞳がぱちりとあって、同じ事を言いたかったのだろうかと考える。

「なら、俺たち四人で城へ行こう。クローシェと冬花の二人だけを
危険なところへ向かわせるわけにもいかないし、ルドもそれで構わないか？」
「そうするか。城、だな」

ならばと、返ってきた答えにほっと胸をなで下ろす。自分だけの我儘では無かった事と同意を得られたことに安堵の息を吐きつつ。
そしてこの4人で行くのは初めてだと思えば、やはり嬉しい。
他の一揆参加者として出会った人たちが嫌いだったり嫌な訳では無くて。
ただ、やっぱり元の仲間の元は、何処か安心出来るのだと、実感する。

「ありがとう」
「と、……、ごめんなさい？」

いつもの様に眠たげに、おっとりと告げられた言葉。少女のその言葉に、
何のことだろうと思いつつ、己もまず礼を優先させる。言いたい事も一つ、あったから。

「最近トウカさんをマコトさんにとられてしまいましたし。
……あら、そういえば、マコトさんとご一緒するのは私、初めてですわ」

「とられる。取られる……」

冗談交じりに付け加えれば、少女が首を傾げる。言葉の通りに受け取ったのだろうか。

「——って、クローシェ。俺は別に取ったつもりは無いぞ。冬花も真に受けるなよ」

肩を竦めながら言うマコトに対し、その様子を見ていたルドも笑う。
こちらも思わず笑みをこぼすけれど、決して嘘ではなかった。
……初めてできた女の子の友達を『マコトセンパイ』にとられて少し淋しかったのも事実だから。
少し位。少し位言ってもいいだろうかと、思って。
勿論、二人がこうやって肩を並べている姿を見れて、笑っている二人を見れて、本当によかったと思っているのも、本心だから。

「しばらく別行動が多かったけど、これからはその必要も少なくなる筈だ。あんた達と一緒に肩を並べて戦えることを嬉しく思う」

「クローシェ……それにルドも。改めて、冬花を守っていてくれてありがとう。
俺たちが無事に再会出来たのも、あんた達のお陰だ。
俺たちは冒険者としては未熟だし、これからも迷惑を掛けると思うけど、その……今後とも、宜しく」

「……私からも、ありがとう。色々と、気に掛けてくれていたから」

改めて言われた言葉にぱちり。瞳を瞬かせる。
少し気恥ずかしそうに少年言われ、いつもの様子のまま、ただ真っ直ぐに見つめ返し告げられた少女の言葉に、先に返したのは、ルド。いつもの様な穏やかな、様子。

「俺は好きでやってた事でもあるしな。迷惑かけんのは俺もそうかもしれないし、お互い様だろ。こっちこそ宜しくな、少年」

「お礼を言われる事は何もしていませんわ。だって、友達ですもの、当たり前です。
旅や、守る事は私も不慣れですから、そういった処はルドさんに助けて貰ってばかりで」

「私こそ、未熟ですけれど。改めてどうぞ、宜しくお願い致します。
こうやって皆さんと一緒に居れて、本当に嬉しいんですの」

心からの、言葉。何度だって言ったって足りない言葉。
一瞬、ルドへと視線を向けた後に言葉をつづけて自分も笑う。……青年が、名前を呼ばなかった事を少しだけ不思議に、思いながら。

「……そういや、城で何かあったのか？」

そして告げられた、興味心を隠せないと言った様子のマコトの様子。

「……うん、まあ、ちょっとあったか。大した事じゃないけど」

誤魔化す様な声が混じり。普段より少しだけ自信がなさ気な声に聞こえるのは気のせいか。

「……うん。問題は、なかったよう」

「……？　特に大事に至らなかったのなら、別にいいか」

少女が返せば、そうなんだろうと、判断する。恐らくは、少年も。
少なくとも自分が一度様子が少しおかしいと感じた彼より今は至極普通の状態に見えるし、少女から見てもそうならば大丈夫なのだろうと。

「……行く？」

ぽつり、三人へ視線を向けられ告げられた少女の言葉が、切っ掛け。

「そうだな、行き先も決まったし、早速出発しよう。城には一体何が待っているのやら——」



*



「——ヘム」

笑いあい、城への道を向かおうと歩きだした、時。
肩からかけられる声。耳に馴染んだ、何度も聞いた声。
仔リスの瞳がじい、とこちらを見ている。瞳の奥の色は。

「大丈夫ですよ」

ふわり、いつもの様に笑い返し、仲間の後を追う。
少しだけ、足取りを軽く。
肩元の仔リスは、少しの間を置いてするり。大人しく元の位置へと戻った。

いつものような威勢はなく、小さく塞ぎこんでしまう。
どうやら申し訳なく思っているのは本心らしい。

不意に踏み出された一歩に、じいと見つめる瞳に、言葉を失う。

そう言って、彼は味噌汁に必要な材料、そして調理方法について語り始めた。

ちょこちょこ動き回る仔リスが、転げ落ちないか心配そうに目で追っている。

受け取った言葉を反芻しているうちに気恥ずかしくなったのか、
ぐりぐりと頭をティムラハの首に押し付けたり、耳に噛み付いたりし始めた。

一人と一匹は反転すると、ぼそぼそと、顔を近づけて話合い始めた。

もうどうにでもなーれ、という爽やかな笑顔。

可愛い反応に、羨ましいなんて思ったりもする。
動物の形を模しているからだろうか、これまでに会話することは無くて。

少し不便で、だからこそ個々が精進せねばならなかった。

にこにこと穏やかに笑ってブラウニーの方を見つめる、が。

明らかにいつもと違う様子に、思わず声をかけた。

およそこの場所には似合わない妖精の姿に瞳を瞬かせ、

多頭の蛇へと視線を移せば、小さく息を吐き、風を引き寄せる。

えと、と悩むように言葉を区切りながら、少女なりの不器用な気遣いを。

手を口元にあて、くすり、笑いながら。

ほっと、安堵するように息をついて。

顔を覆うルドを見、契約を終えたヒュドラと目を合わせ、暫し見詰め合い。

そそそ、とその大きな身体を、己の小さな身体で隠そうとしてみた。丸見えだった。