草原で過ごす夜は、寒い。砂地と同様、急ぎの技師や見張り番にとっては辛い気候だ。

はーっ、と冷えた指先へと吐いた息は、白い靄となって空気中に消えていった。少し眉をひそめ、諦めたかのようにぱちぱちと音を立てる火に手のひらを向ける。……薪の様子を確認して、枝を一つ放り込んだ。

普段ならすやすやと寝ているだろう私が（わざわざ寝袋を押し付けてまで！）見張り番をしているのには訳がある。当然ながら、そう大したことではないのだけれど。
砂地での番は眠れないからと言い張ったヘイアンがほとんど担当していて彼が休んでいないことと、森の方へ行ってきたミモザが疲れているだろうというちょっとした配慮だ。この二人のどちらかが倒れると、このパーティは立ち行かなくなると思っている。
経験豊富そうなナビに丸投げしても良かったのだが、一応管理をしている身としては、彼女に丸投げするのは気が引けた。最近は単独行動が増えて、何か疲れるんじゃないかなー、と思ったというのもある。
総じて言えばこの集団の保全のためであって、急に勤労精神に目覚めたとか、たまたま目を覚ました残りの二人が変な事になると嫌だとか、そういうことでは決してない。

残りの二人はすぐ近くで寝息を立てており、バイクも音を立てずに休んでいるように見える。
それを確認すると今度は、一緒に警戒してくれているエンブリオと異常がないことを確認し合う。
それだけ終わると、お手製の魔法瓶からカップへとお茶を注いだ。ふわりと広がる、暖かい湯気。
口をつけて、少しだけ流し込む。潤う喉、温まる指先と身体。思わず偉大なる先人へと感謝の念を捧げる私。

「……ッ……」

呻き声が、耳に届いた。横目でちらりと、そちらを確認する。
その主は、我らがリーダーことヘイアンだった。……悪夢にでもうなされているのだろうか、その顔はとても苦しげに見える。
今にも歯軋りをし出しそうだな、などと考えて、視線を火の方へ戻した。どのような夢を見ていようと、どのような過去があろうと、彼のそれと私は何ら関係がないし、彼も多分そう言うだろう。

「ァ……ッ、あ……」

だから関わらないようにして、放っておく。別に他人の苦しむ様を
見て楽しむ趣味はない、とばっちりで皺寄せを食らう身からのささやかな仕返しだ。寝言の内容が聞こえてくるわけでもない。カップを傾ける。

「……ぁ、ぎ……、……——ッ……！！」

何か、名前が聞こえた気がする。……少しだけ、お茶がまずく感じた。一息に飲み干して、立ち上がる。
よく考えなくても、こんな状況でお茶がまずくなるのは容易に想像が出来る。寝ててもロクなことしねえなこいつ、と思いながら、悪夢に苦しむヘイアンのそばへと場所を移した。
頭を蹴り飛ばして起こそうかと思ったが自重して、そばに腰を下ろす。それから少し悩んで手を握って、頭を撫でた。小さい頃は自分がこうしてもらっていた気がするから。

「…………ぐ……ぁ……」

声が小さくなった気がする。めんどくささを押し込めて手を動かす。周囲の警戒はエンブリオにお願いして。
そのまま呻き声が聞こえなくなるまで、そうし続けた。あくまでも、不愉快そうな表情のまま。

……耳元で会社の上司っぽいことでも言ったら、悪夢の内容が変わったりしないだろうか。憂さ晴らしならそっちの方がいい気がしたけど、気分が乗らなかったので実行はしなかった。実験はまた今度、ということにしておこう。

蜂蜜入りのそれをおいしそうに飲むフィアを見て、
ピアは小さなグラスをひとつ取り出す。そこに件の飲料とたくさんの蜂蜜を注いだ。

飲む。

合格のようです。


※（展開しているストーリーの都合上、近いうちにメッセージを切り上げさせてもらいます。
展開が多少強引になるかもしれませんが、よろしくお願いします。

　

　

　

　

　

　

　

声を掛けられた少年は、彼らしからぬ様子で俯いていたものの、
弾けた様子で顔を上げて彼女の方を見て、いつも通りの表情に戻った。

瞳と瞳があった時に、何かを感じた。近しいもの。
そう、それは言葉では言い表せない本質的な。

とはいえ言葉で表せないので、それ以上うまく言う事も出来ず
流石にぶっちゃけて聞く訳にもいかない。ザ・ヒキコモリ

そう言うと、くるっとターンしてみせた。

どうやらだいぶ気に入ったようです。

何やら多機能そうな端末を使いこなす彼女の指をほう、と眺めつつ。

覗き込んだ画面に表示されていたそれは、良く知るもの。
驚きから立ち直るまでに、のんびりと、数秒。──それから、

彼女の好意が有難くとも、口下手な少女はそれ以上紡ぐ事が出来ずに。
結局、続いての相手の出方を待ってみることにしたらしい。じい。