■花屋敷：奥座敷にて

「そういうわけやから、サクロの。ちょっと外で働いてきてや」
　しゃくしゃくと、たっぷりの沈黙を置いて。
「…おかねくれへんばかりやのォて、とうとう、みうりさせられる…」
「うん、ゆっくりアイス食べ切ってから項垂れられてもやな」
　城への短縮ルート案内をどこぞへ頼んでいたらしい。
　いつの間に。
「何や、ユーグも一緒か」
「お目付け役…ではないがね。先方への挨拶も済ませてある」
　ホンマに、いつの間に。
「抜け目ないやっちゃな。しっかりもんばかりで、何よりや」
「「…。」」
　おまえがしっかりしろ。
　そういった意味合いであろう視線を感じたような気がせんでもないが、そんな意図を汲んだところで私にとって何らよいことはないので、二つ目のアイスを片付けることにする。
「食べすぎとちゃうの」
「涼しなってきたさかい、保冷庫の片付けがてらや」
「はらこわせばエエのに」
「心配ですらない！？」


■平原：広庭にて

「やぁ。そういうわけやから、二人とも、よろしゅうに」

　合流した先の二人は、やはり、と言うべきなのか、幾分か変わった様子の人間だった。
　あるいは、人外か。
　どちらと区別することに、私にとっての価値はあれど、この場においての意味がない。

　シャグノゼと聞いた、白い娘。
　血の臭いがする。
　それは私にとって嫌いな臭いではないので、つまりは、好ましいものを感じた。
　味見、と言い出せば、お目付け代理がうるさそうなので、もちろん、黙っておく。

　魔法使いと呼ばれていた、眼帯の男。
　暑い地方の衣装に見受けたが、日に晒された肌には見えない。
　眼帯の向こう側を伺いたい気もしたが、ただの好奇心で手を出すには少々届かない距離にある。
　だいたいの疑問は、「魔法使いだしな」で済む気もしている。

　美しく整えられた庭園を往く。
　この色鮮やかさは、ネクターとやらを独占しているゆえなのか。
　外の人間を犠牲にして、この花園はこんなにも美しく咲き誇っているのか。
　そうであるならば、ここは、大変に、
「…サクロ？　何を笑っているんだい？」
「ん？　いや。庭が綺麗やな、と思て」
「呑気なものだ」
「鳴かん小鳥相手に花の講釈たれとるヤツに言われとォない」
　連れられているツグミは、普段と違う顔ぶれをどう見ているのか。
　ふらりと、飛び交う蝶々を追いかけていきそうな曖昧な視線からは伺い知ることはできない。
「何時も楽しむ余裕を持つのは悪いことではないよ」
「それには、同意しようとも」

　やかましいのがおらん間に、てな。

紗智は悪戯っ子の様に微笑んだ。

呼吸を盗んだかのように、すっと間を縮めてみせる。