「ほら、あいつだよ」


「ああ、魔術が使えないって言う」


「聞いたことがないわ、魔術が使えないなんて」


「そうだよ、聞いたこと無い」


「どんな奴だって、子供の頃には魔術のひとつやふたつ」


「じゃあ、どうしてあいつは魔術が使えないの？」


「どうしてだろう？」


「ねえ、ねえ」





「あなたは本当に人間なの？」











—ただの日記—

—○月×日—

なんだか珍しく昔の夢を見た。

俺は相手の魔物にやられて意識を軽く失っていたらしい。

気づいたときには戦闘は終了しており。
タイガーの「どないや！」という勝利の声が響きわたっていた。


頭を掻く。

見るとタイガーの車体は明らかにボロボロで。

勝敗を決めたのが紙一重の差だったことがわかる。

つまりは運が良かったということだ。

感謝。

タイガーに感謝だ。





昔は散々化け物と言われた。
魔術が使えない人間なんてあの世界には存在しなかったから。

しかし、今となっては自信を持っていえる。



残念ながらただの人間であったと。

ドジですっとこどっこいのただの何でもない人間ですよ。


まったく、俺がとんでもない化け物だったら、こんなに重たいボロ大剣を振り回していない。どこに魔術を通さない大剣なんて好んでつかう輩がいるのか。


まあ、ここにいるのだが。


しょうがない。ただの魔術の使えない人間はできることを少しずつ
やっていくしかないのだ。

それですべてうまくいくわけではないが。
無駄にはならないと思う。


とりあえず、訓練しよう。
そうすれば0.01秒くらいは前回より長く立っていられるんじゃないか？


できることをちょっとずつだ。


—○月△日—


最近練習試合でタックルばかり使っていた。
そのせいか、前回の対戦相手からはドン引きされていた。



まったくなんてこった！



このままでは、何でもない屋の評判が悪くなる一方じゃないか。
仕事が来たことがないので評判も何もないが。








こうなったら、この料理の腕を活かして食堂でも開くか。
いわゆる歩行食堂だ。

タイガーの荷台で料理を作り、休憩先で食堂を開く。
なかなか良いアイデアではないか？


さっそくチャレンジしてみよう！



—同日—







連日のタックルのせいで料理器具がボコボコになっていた。
こんなところにも弊害が出ているとは。








やはりロマンを追い求めることは一筋縄ではいかないのだ。








—○月□日—

森林に到着。

あきらかに運転のし甲斐があるコースだ。

安全運転でいこう。

安全運転で。

色々と不安を覚えつつも、少なくともやりとりはまともに出来る様子だ。
それだけは幸いだったかも、とホッとしていた所に飛んできたベルの一言に苦笑する青年。

たしかに頑丈そうでは在るのだが。
しかし、彼女が案じず誰が一番に彼の身を案じるというのか。
そんな配慮から思わずポソリとそうつぶやく青年である。

しばし無言な様子には不思議そうに首など傾げつつ、尻尾をゆらゆらり。
様子を窺うように眺めていたが、声をかけられ居住まいを正せば口を開く。

ふと相手の連れのトラックとかを見やり、複雑そうな表情で首を傾げる。

バクバク