その日は外気温35度を超えていたと思う。
次の侵攻先への準備で大本営を訪れた私達は衝撃の文字を見た。

『猛暑のため一週間のお休みを頂きます』

山岳のふもとからやってきた私達の労力を返せ。
いやうん、気配はあったんだ。暑かったら作業効率悪いよね的な空気は。
でも、すぐ休もうとする権利意識ばかり高い人間は要らないとか
ルリアンナ嬢が言うからこのまま稼働するのかと信じていたのに。

多少心が折れつつ、近くの喫茶店に入る。
小僧と二人でレモネードを注文し、一息ついた。

「いきなり予定が空いてしまいましたね……。」

おかわり自由の水をテーブルに運びつつ小僧がこぼす。

「我が君、これからどうします？」
「うーん、折角の休暇なんだから遊んでしまえばいいのではないかな。
　休暇を適度に挟まないと効率は上がらんよ。」

壁の張り紙に踊る『SummerVacation』という言葉を眺めながら私が答えた。

「遊ぶって海とかですか？我が君の水着とか需要あるんですか？」
「あまりないと思う。
　お前はあんな山岳に住んでて海は珍しかろうから、めいっぱい遊んでくるといいよ。
　私は酒飲みながら涼しい所で昼寝とかしてるし。」
「駄目な大人だ……。」

小僧は運ばれてきたレモネードにストローを突っ込む。

「とりあえず休暇をどう過ごすか決めましょう。
　どう頑張っても僕の話は進みそうにありませんし、次回予告まで切ったのに。」
「……悪かったと思ってる、いやほんとに……。」

レモネードの中の氷は、溶けてゆっくりと下へ下がっていった。

◇◇

レモネードを飲み終わって、私達は市場へ足を伸ばす。
休暇の計画を立てるとか、わりと不毛だと思うが
この人の多さでは無計画だと何も出来ないような気もするし。
私はそれで良くても小僧が可哀そうだろう。

視線を下へ落とすと、わりと新しいチラシが落ちているのが目に入った。
反射的に私はそれを拾い、手に取る。

『臨時団員募集』

劇団？
いやまて、ここは曲がりなりにも戦場の一部だった筈だが。
書いてある内容は、簡易な地図と二刀の曲刀のマークだった。
地図はともかく、曲刀のマークに少し引っかかった。

「我が君？何やってるんですか？」

立ち止まっている私を不思議がりながら、小僧が声をかける。

「いやこれ、このマーク見覚えないか？」
「剣のマークですか？……いいえ？」

チラシを覗き込んだ小僧は、首をかしげる。
不穏というわけでもないのだが、私の気のせいだろうか。

「そんなに気になるなら、その臨時団員とやらに行ってみましょうよ。」
「得体の知れないものに行くとか、お前も結構リスキーだな……。」
「大丈夫ですよ、いざとなれば我が君の飛び道具で。」
「お前にはもう少しジュネーブ協定について教える必要がありそうだ。」

言いつつも、私達の足は地図が指し示す先へ向かっていた。
カルト的なナントカなら正当防衛を成立させてしまおう。
そんな事を考えつつ目的の場所に到達する。

目の前には、軽快な衣装に身を包んだ金髪の少女がひとりいた。
勿論、見覚えがある。

「アラビアンナイツへようこそ！団長のシエラだ歓迎するぜ。
　とは言え実力もわからないのにすぐに入団というわけにはいかないがな。」

チラシと少女を交互に見つつ確認する。なるほど、そういうことか。
ドヤ顔で挨拶する彼女にどう返答していいか迷いつつ、言葉を選ぶ。

「ははぁ……臨時団員てシエラ殿の盗賊団だったのか。」
「そうだ！……って、お前俺のこと知ってんの？」
「前に一緒にお茶した事があったと記憶しているが。」
「ああ、俺にお茶代貢いだお人よしのBB……寿子か！久しぶりだな！」
「シエラ殿、久しぶり。」

軽く片手を上げる。この暑い中、元気そうで何よりだ。

「だが俺は知り合いだからって手は抜かないぜ！
　これから集まった７人には入団テストを行なってもらう！
　皆で協力して俺の命令書を暗号に変えて届けてくるんだ。」
「つまりは暗号作成と伝令ということか？
　直接窃盗するより心理的には楽だが、初心者にはハードル高くないかね？」
「割とマジで人が足りないんだよ……。
　オレからの命令書を他の部下に届けたいんだけど、
　残念なことにオレたちには敵が多いからな。
　命令書の内容が他人にバレたら妨害されちまう可能性がある。」

他の部下というのは私の知る限り見たことはない。
まさかとは思うが、この「他の部下」とは、
シエラ殿のの想像上の存在にすぎないのではないだろうか。
……いやいや、やめよう。

「初めての任務だからといって気を抜くなよ！
　夏休みだと気が緩むだろうからな！やりたいほうだいだぜ！！」

少女は楽しそうに笑っている。
そう薄暗い感情を持っているわけではなさそうだし、
遊びの範疇でなら付き合ってもいいだろうと判断した。

「臨時団員の入団テストか。
　いきなり盗賊団に入れと言われれば二の足を踏むが、
　臨時団員だったらやってみてもいいかな。合格するか分からんし。」
「え？今回の夏休みはアラビアンナイツに入っちゃうんですか？」
「期間限定だろ、真夏の夜の夢だ。」

そう言ってくすりと笑う。
夏の思い出としては多少変わっているが、楽しくなるだろうと感じた。


◇◇◇


——SummerVacation　当日朝。


「我が君何やっているんですか！？」

あまりに意表を突かれたのか、小僧の口からサンドイッチが落ちた。

「何って、盗賊団の恰好だが。」
「そんな気合入れている人間なんて居ませんよ恥ずかしい！」

こいつは時々私よりもずっとシビアな事を言う。
まぁ意に介するつもりはないのだが。

「っていうか、そんな裁縫技術どこで習得したんですか？」
「軍人の嗜みだ。アイロンかけと靴磨きと裁縫ならそうそう負けん。」

多少小僧の言葉に棘を感じたが、そんなものは無視する。

「盗賊の真似なんて今しか出来ないからな。精一杯楽しむつもりだ。」
「楽しみすぎでしょう……主催の人さえドン引きしますよ。」

小僧はがっくりと肩を落としつつ、落ちたサンドイッチに合掌をする。
私は今日一日を遊び倒すために、持ち物の用意をしていた。

今日もまた、暑くなりそうだ。



To Be Continued......



※日記を書くにあたってシエラ（1009）さんをお借りしました。
※今回は予告より日記の内容を変更しております。

そう言って修道士は悪戯っぽく口の端で笑った。

コトブキさんを慮るように呟いた後、ミハイル君に向き直り

そう言うと、ミハイルを一人前の男として自覚を促すようにその肩に手をやった。

どうもうさんくさい長耳男があらわれた。
よくある（？）突撃めっせとやらなので放置でもかまいません

シエラは寿子に連れられて店に入ると店員にミックスジュースを注文する

そういってジュースを注文すると椅子に座り寿子の話に相づちをうつ

そうして3人で飲んでいるとミハイルからの言葉にシエラはなにか思ったのか言葉を紡ぐ