ENo.896 ミリア・イグ・ルヲズ

case.2 part.1 潜航艇
”今回は海中生態調査に同行した際の話”
……
…
イ｢海中生態調査?｣

｢そうだ、一緒に来てみないか？｣

イ｢行ってみてもいいがわざわざ術理学関連で行くほどのモノなのか？
…て、そうか、海中じゃあ光も通らないから…か｣

｢そう、普段ほとんどの生物が用いているような視覚ではまったく見通せないし、
海中では、外界とは音の伝わり方もまったく違うから普通の音波では見通せない。
それに、音波で調査しても、ノイズなんかがひどくてとても調査には向かない。｣

イ｢ノイズの原因として何が挙げられているのか聞いていいかな?｣

｢うん、いろいろあるし、何を観察対象にするかにもよるが、
まず海中生物本体、そして(この世界の)海中生物のほとんどが
主に用いている音波による干渉作用、
海底位で乱反射したそれらによる干渉作用、
最後に、一番厄介なノイズとして、海中と海底に不規則に存在し、漂い、
常に音波観測の妨害をしてくるほかの金属やそれと水銀の合金である
アマルガムによる伝達速度の違いと、境界領域の複雑な屈折によるものがあるよ。｣

｢だから、術理学が発展してくるまで海洋における研究はほとんど発達してこなかったんだ。｣

イ｢それで、術理系の解析が必須という訳か…
……いいよ。一緒に行こうか。｣

―――

所はいつもの研究棟から海洋に隣接する海洋研究棟に来ている。

この世界では海中の生き物は非常に探知しにくく、
かつ海表にいるモノは厄介なものが多いために
港湾施設はほとんど整備されておらず、海に直接面しているのはこの施設のみである。

ちなみにこの生き物は海表及び、湖表のみに確認されており、
河川や滝、沼沢地などでは確認されていないが、
なぜ湖と海でのみ確認され、直接つながっている河川などで
確認されていないのかは、分かっていない。

そして、この生物がどのような生き物かも性格には判明しておらず、
その詳細調査も海洋研究の重要な柱となっているそうだ。

海洋研究棟は地上2階層、地下7階層でできており、海洋接触面は侵食が起きないよう、
そして今言った厄介なモノに浸蝕されないよう、特殊な術利装飾がなされているようだ。

今回の調査に使う潜航艇は地下3階から地下6階までぶち抜いて造られており、かなり大きい。
ここにある潜航艇は高い圧力に耐えうるよう、ほぼ球形であった。
そして、長期間の調査を行えるように数ヶ月から、
理論上は数年分の必要物資が搭載できるようになっている。
球体潜航艇の内部は5層で構築されており、
大きく内環境調製区画、外環境調査区画、居住区画の3つで構成されている。
第1層と第5層の両端階層は、外環境調査用物品の収納、調整、保管に用いられている。
第3層は外周部に艦橋司令部、外環境把握用センサー類のコントロール室が、
中央部に、内部環境調整兼潜航艇メイン浮動･駆動機関が存在している。

浮動･駆動機関のエネルギー源は
俗に言う永久”増幅”回路の一種”CAE魔導回路”を用いているようであった。
この回路から導出したエネルギーを浮動機関や駆動機関に供給することで
機体の推進･制御の他様々な熱として利用したり、
直接エネルギーとして実験などに利用しているようだ。

第2層には、大規模ビオトープが存在し、また第4層は、居住区画があると共に、
詳細な分析や解析を行える研究区画も存在する。

実はこの潜航艇は3機目であり、この潜航艇は進水式すらまだで、
今回初めて潜航するそうである。
計算上は8000メートルまで潜航できるようなのでまずはその限界を見、
潜航期間も数ヶ月取る予定だそうで。

これまでの歴史を聞いたところ、1機目は初潜航から22年で浮動･駆動機関が劣化し、
潜航がままならなくなったので取り壊したそうだ。
ちなみに最高潜航深度は230メートルくらい、最大潜航持続機関は1週間ほどだったそうだ。
2機目は初潜航から34年たった去年、もっと潜航深度と潜航持続期間を延ばした
最新鋭の機体を作ることが承認されたために廃棄されたそうだ。
2機目の最大潜航深度は500メートルくらい、最大潜航持続期間は5ヶ月程度だったそうである。

1機目はほとんどの部分が劣化していたために廃棄されたが、
初代であったことから一部は残され、博物館に展示されている。
2機目は流用できる部分と機密にかかわる部分は回収され、
ほとんどまっさらな状態になるまで痕跡を消し去った後、
オークションにかけられ、この星のとある好事家が落札したそうである。

……浮動･駆動機関も無いのに…一風変わった住宅にでもしようというのだろうか…

1機目の浮動･駆動機関は中枢のエネルギー変換部位に
当時、その変換特性と寿命が最もよかった
第9周期の希少金属アテルクィウムが用いられており、
その金属の一部分が経年分化したことにより、効率が著しく下がったために
浮動･駆動機関のさまざまな場所に過負荷がかかったこと、
そして過度なエネルギー抵抗により、さらに広範囲に負荷が広がる
負のスパイラルを描いていたことが故障要因だったそうだ。

2機目は同位置に2機目製造時に性能のよかった
第9周期の希少金属ユーティルリウムをエネルギー変換部位に用いて製造し、
定期的に分解、最適化修理を行えるように
主浮動･駆動機関を二重に設置していた。

今の3機目には2機目と同様に二重設置により定期的に点検できるようにした
浮動･駆動機関を用い、エネルギー変換部位にユーティルリウムに
第6，7周期の金属をいくつか混合した合金を用いている。
また、増幅後のエネルギー出力にムラがあるために負荷が大きくかかるので、
エネルギー変換の際に負荷とならないように、
エネルギー変換直前に整流因子として
第9周期の希少金属チェィルセスティに術理因子を錯合させたモノを取り付けてある。

というわけでこの海洋潜航調査に必要なのは、
まず第一に術理学を学び、術理感覚に優れたものでなければならない!!
なぜならば、潜航を順調に成功させるためにも、そして適宜海中を調査し、
成果を挙げるためにも必須であるのだから

……ということらしい。

まぁ、面白そうですし…ということで正式に潜航に同行することにしたようだ。

case.2 part.1 fin.