ENo.2766 盛岡鈴菜

The fifteenth day
Encouragement
of the snowy fairy
and girl.

「……私の所為なんだよね……」
　スティルフの街に戻ってきた盛岡鈴菜は宿屋の食堂でそう言って大きくため息をついた。
　鈴菜が後悔にうちひしがれているのは自分の発した言葉から全てが始まったからだった。
「あの時……、あんな事言わなければ……」
　皆との訓練の後自分がたまたま聞いた噂を頼りに準備もそこそこに強行して森に進もうとして招いた結果が、皆を巻き込む大敗北であった。
「鈴ちゃん……」
　八月一日未来は道声を掛けたらいいのか判らずに、その鈴菜の姿をじっと見つめていた。
　その未来に同じ様にじっと見ていたユーキ・ヒロは黙って首を横に振った。
「私の所為でアリシアちゃんが……」
　妹のように感じていたアリシア・ウールが敗走中の最中はぐれてしまい、今この場にいない事が後悔に更に追い打ちを掛けていたのだった。
　いつもは前向きで後悔とは無縁のような鈴菜だったが、流石に今回の一件は堪えていた。
　まさか迂闊に分け入った森の中で予想もしていなかった強敵と出会い、善戦したものの皆が手痛い傷を負って敗走する羽目になる事まで考えていた訳ではなかったのだった。
　誰もが言葉を発せずにしばらく沈黙の空間が、その場を包む。
「……私達は敗北しましたが、次に勝てば何も問題は無いありません」
　唐突にY.A.T.A.H.が口を開き、Y.A.T.A.H.なりに事態を何とかしようと言葉を発した。
　正論ではあったが、流石に今言われても厳しい言葉に更にその場が静かになる。
　そんな中、唐突に鈴菜が立ち上がる。
「……鈴ちゃん？」
　未来が立ち上がった近寄って鈴菜の肩に触れようとする。
「……ごめんちょっと一人になりたいの……」
　鈴菜はそう言って、一人部屋から出て行った。
「随分堪えてるようじゃの」
「その様ですね。私から見る限り今までが上手くいきすぎていたのだと思われます」
　ヒロとY.A.T.A.H.は今までが多分に偶然に救われてきたのだと言う事を改めて感じていた。
「でも大丈夫かな？」
　今まで黙っていたエルシア＝アルトシアが鈴菜の出て行った扉を見つめながら言った。
「それはわからんの。彼女の性格からすれば立ち直ってくれるとは信じたいがの」
　流石にこのような事態の後も同じ様に振る舞えるかまでは判らないと両手をお手上げとばかりに上げながらヒロは言った。
「私やっぱり鈴ちゃんの事見てくるよ」
　ここにいる中ではセルフォリーフに来て一番付き合いの長い未来はやはりいても立ってもいられなくなり、そう言って走って部屋を出て行った。
「ま、彼女らはいつも仲がいいし、ここは未来殿に任せるのが一番かの」
　自分達が今慌てても仕方無いと、経験から判っているヒロはそう言って手にしたパイプを口に銜えたのだった。

　§§§§§§§§§§§§§§§§

　宿屋から飛び出した鈴菜はスティルフの町中を目的もなく走り回り、気が付くと噴水のある小さな公園に辿り付いていた。
　公園にたどり着くとふらふらと焦点のあってない瞳で、近くにあったベンチにそのまま腰を下ろした。
　殆ど人通りのない公園で、鈴菜は一人身じろぎもせずに虚空を見つめていた。
　その足元に鈴菜の瞳からこぼれ落ちた涙が落ちていった。
「どうしたんですか？」
　そんな鈴菜に声を掛ける人影があった。
「……？」
　焦点のあってない瞳でその顔をあげると、そこには白い服に身を包んだ雪のような白い肌の少女が立っていた。
「どうしたんですか？」
　返事がない鈴菜に雪妖精である少女、リッカロッカ・スノウドロップは聞こえてなかったのかと思いもう一度聞き直した。
　最近冒険の中で知り合ったリッカの姿を見て、アリシアの事を再び思い出した鈴菜はリッカの肩を抱いて、声をあげて泣きじゃくったのだった。
　ひとしきり泣いてようやく落ち着いた鈴菜を見てリッカはその涙を拭いてあげながら優しく声を掛けた。
「大丈夫ですか？何があったんですか？」
　その言葉でようやく落ち着いたのか鈴菜はぼつぼつと喋りはじめた。
　鈴菜の言葉を相づちをうちながら聞いていたリッカはなる程と頷いた。
「鈴菜さん達そんな事になっていたんですだ……」
　以前魔石を作って貰った、明るい笑顔の少女の事をリッカは思い出していた。
「つまり鈴菜さんはアリシアちゃんとまた会いたいんですよね？」
　鈴菜の話が終わると開口一番リッカはそう聞いた。
「……う、うん」
　そのリッカの勢いに押されながら鈴菜は頷いた。
「だったらきっと大丈夫ですよっ！？」
「……え？」
　リッカのその確信にも似たその力強い言葉に鈴菜は驚きの声をあげた。
「実はですね、ボクもある人を捜しているんですよ。あ、でもちょっと違うかな？」
「リッカちゃんも？」
「うん、でもその人といつかまた会えるって信じてる。そう信じた人の思いがボクを支えてるんです」
　リッカの『何があっても諦めないし、信じている』という決意の籠もったその台詞に鈴菜はどこか羨ましい物を感じていた。
「なんか凄いね」
　そのぽろりとこぼした鈴菜の言葉をリッカは聞き逃さなかった。
「そこで諦めちゃダメですよ。信じていればそれはきっと叶うんです」
　ぎゅっとその小さな少し冷たい手で鈴菜の手をリッカは握りしめる。
「ボクもアリシアちゃんの無事を信じるよ。だから鈴菜さんも諦めないで信じましょう」
　励ますように言われたその言葉に鈴菜は小さいながらも勇気を貰ったような気がした。
「ありがとう……。私達が信じてなきゃダメだよね。恥ずかしいけど言われてようやく判ったよ」
「大丈夫ですよ。信じてればきっと叶うんです」
　そのリッカの励ましに、鈴菜はようやく戻ってきた笑みで応える。
「うん、信じるよ。信じる事から始まるんだよね」
「その通りだよ」
　リッカはもその鈴菜の笑みの応えるように笑みを浮かべたのだった

　§§§§§§§§§§§§§§§§

　リッカと別れた鈴菜は大きく背伸びをすると、ジャケットのポケットから一冊のメモ帳がカタンと音を立てて地面に落ちた。
「あ……」
　鈴菜は慌てて、地面に落ちたメモ帳を拾おうと身を屈める。
　地面に落ちた表紙で開いたページを見て、拾う手が一瞬止まる。
　気持ちを切り替えて鈴菜はメモ帳を拾い直す。
　そのメモ帳は鈴菜が普段肌身離さず持っている、自分の創った詩を書き留めている物であった。
　メモ帳の開かれたページにはアリシアと出会った事に創った詩が書かれていたのだった。
　そこに書かれた詩を見て、鈴菜はふと何かを考え込むように瞳を瞑る。
　しばらく黙って瞑っていたが、ゆっくりと口を開くと鈴菜の口からメロディが紡ぎ出される。
　だんだんと体中から出るリズムに乗ってくる鈴菜の口からは、先程書かれていたページにある詩がリズムに乗って紡ぎ出されていった。

♪ＤｅａｒＭｙＦｒｉｅｎｄ♪

♪ねぇ、君は今何をしてるの？
君と私、今は違う時を過ごしているけれど
君と一緒に過ごした時間、今でも私の宝物だよ
DearMyfriend
DearMyfriend
いつか私と君が大人になったその時にまた会おうよ
手と手を繋いだ、その想いは忘れずにたまには私の事を思い出してね
MyBestFriend♪

　ひとしきり歌い終わり瞳を開けると、鈴菜の回りにはいつの間にか歌を聴くために集まっていた人達が集まっていた。
　沢山ではないが、それでも確実に自分の歌を聴いてくれる人がいたと言う事に鈴菜は嬉しくなった。
「……またアリシアちゃんに私の詩聞いて貰いたいな、その為にはもっと上手く歌えるようにならないとね」
　そう小さく呟いた鈴菜は聞いてくれた人達に小さくお辞儀をして礼を述べる。
「やっぱり鈴ちゃんだ、こんな所にいたんだ」
　唐突に鈴菜に話しかける声が聞こえてくる。
　それは鈴菜の事が心配で宿屋を飛び出した未来であった。
「未来ちゃん、どうしたの？」
「どうしたの、じゃないよ……。心配させておいてまったく……」
　呆れたように未来は大きくため息をつく。
　ただ未来は鈴菜の様子を見て、自分の心配が杞憂で終わった事を理解していた。
「鈴ちゃん吹っ切れたみたいだね」
「……うん……」
　鈴菜は未来の問いに頷いて答える。
「心配して追いかけてみたら、公園で楽しそうに歌ってるんだもん、なんかばかばかしくなっちゃうよ」
「……ごめん……」
　どこか戯けるように言われた未来の言葉に対し他の言葉が見つからず鈴菜は未来に謝る。
　別に責めるつもりではなく、少しからかって見ただけの未来は少しばつが悪くなり、その顔を赤くする。
　次の言葉が見つからず、黙り込んだ二人だったが、その沈黙を破ったのは未来であった。
　手にしたバッグから、小さな包みを取り出して鈴菜に差し出した。
　差し出された包みを鈴菜は受け取る。
「……これは？」
「時間が無かったから簡単な物しか作れ無かったんだけど、元気出して貰おうと思って、サンドイッチ作ってきたんだ」
　包みの中には料理の得意な未来らしく、簡単ではあったが丁寧に作られたサンドイッチが入っていたのだった。
「……ありがとう」
　その未来の心配りが嬉しく、鈴菜は未来の事をぎゅっと抱きしめながらお礼を言った。

「ううん、、アリシアちゃんの事は鈴ちゃんだけの問題じゃ無いもん。鈴ちゃん一人で背負う必要はないんだよ。それに大変な時は助け合ってこその親友、でしょ？」
　片目を瞑り茶目っ気たっぷりに言った未来の言葉が鈴菜は嬉しくて、ただ頷くことしかできなかった。
「それじゃ、そのサンドイッチを食べたら宿に戻ろうよ、ヒロさんやシアちゃん達も心配してるしさ」
「……うん、そうだね」
　鈴菜はそう言って未来の顔をじっと見つめた。
「何？私の顔になんか付いてる？」
　怪訝そうに聞いた未来に、今度は鈴菜が悪戯っぽく笑みを浮かべて答える。
「秘密」
「何よ、気になるから教えてよ」
「秘密だってば」
　夕暮れの中、雲が茜色に染まり公園には二人の影が伸びる。
　そして公園の中には少女達の嬉しそうなかしましい笑い声が響き渡るのだった。

To Be continued…….

登場キャラクター
ENo.1155 アリシア・ウール
ENo.1684 エルシア=アルトシア
ENo.1891 ユーキ・ヒロ
ENo.2274 八月一日　未来
ENo.2704 Y.A.T.A.H.
ENo.2766 盛岡鈴菜
ENo.3526 リッカロッカ・スノウドロップ

リッカロッカ・スノウドロップさんをこの度レンタルさせて頂きました、多謝。