ENo.2766 盛岡鈴菜

The fourteen day
training and
.... after that?

　今後の事を皆で話し合う為に一つの部屋に集まった時の事である。
「とりあえず街から離れた時の為の訓練をした方がいいと思うのじゃが」
　それはユーキ・ヒロの一言で始まった。
「それは良いね。ボクもちゃんとまとまって動く練習しておくのは良いと思う」
　エルシア・アルトリアもヒロの意見に同意の言葉を述べる。
「つまり、学校の集団避難訓練みたいな事をやろうって事？」
　二人の意見を自分なりに解釈をして盛岡鈴菜が聞き返す。
「学校の避難訓練？」
　鈴菜の言った言葉の意味がわからずにシアが聞き返す。
「鈴ちゃん鈴ちゃん、それじゃ私以外は判らないと思うよ？」
　自分達の育った世界とは違うと言う事を完全に頭から飛ばしていった鈴菜の言葉に八月一日未来が慌ててつっこみを入れる。
「そ、そうかな？」
　未来の言葉を不思議そうに鈴菜は見つめた。
「鈴ちゃんの言葉を通訳すると、私達の世界だと学校で全校生徒が避難する為の訓練をするのよ。それっぽいって言いたかったのよね？」
　未来の言葉に鈴菜は頷いた。
「なるほどのう、そう言う事か」
　ヒロが異世界での話を聞いて納得をした。
「でも未来さんや鈴菜さんの世界ってそう言う学校がたくさんあるんですか？」
　アリシア・ウールが不思議そうに聞いた。
「そうだね、数百人からの生徒がいる学校がたくさんあってね、同じ位の年の生徒が皆一緒に勉強してるよ」
「へぇ、楽しそうですね」
　アリシアは今話に聞いた光景を想像しながら瞳を輝かせた。
「確かにこっちだと、そういう『大きな学校』ってのはあまりないからの」
　豊かに蓄えられた髭を弄りながらヒロも頷く。
　セルフォリーフ出身であるアリシアとヒロにとっては、数百人が通う学校というのがとても新鮮に感じられたのだった。
「私も小さな私塾で魔法の基礎とか読み書きは習ったけど、そんなに大きくなかったですから」
　指にはめた指輪をその時の事を思い出しながら、懐かしそうにアリシアは触れた。
「まぁ、その異世界での訓練の話は置いておいて、皆で旅をする為の練習をするって事で良いのかな？」
　シアがこれからの行動についての事をまとめようとする。
「そうだの、儂はそれで異存はないが、他の皆はどうかの？」
「構いません〜」
「はい、大丈夫です」
「問題無いよ」
　残った面々も異口同音に賛成の意見を述べたのだった。
　そうして初めて全体で行動する訓練をする事に決まったのだった。

　§§§§§§§§§§§§§§§§

「それじゃあ始めようか」
　街から少し離れた森近くの平原。
　そこで一行は模擬戦の形で、実際に訓練を始めた。
　昼間は模擬戦、夜間はキャンプなどの練習、旅をするのに必要な事を効率よくできるようにメニューは組まれていた。
「Summon Guardian idle！！」
「Summon Salamander！！」
　未来が呼び出した魔導書を手にして、アリシアは指にはめた指輪に魔力を込めた。
　未来の手にした魔導書から光が発せられ未来の目の前に聖なる戦士が呼び出される。
　その未来と相対したアリシアの手にしたカードには火の蜥蜴の姿が浮かび上がりアリシアの前に姿を現した。
　それを合図にして、模擬戦が始まったのだった。
　それぞれの組に分かれて、勝ち負けを決める模擬戦を一行は数度戦った。
「とりあえず今日はこんな処かの？」
　ヒロがそう言って、日の暮れかかったのを見て声をあげる。
「そうですね、余り遅くなっても効果はないと思うし」
　シアがそう言ってそれに同意をした。
「あー疲れた……」
　鈴菜とアリシアがその場に大の字になって寝っ転がる。
「コラコラだらしないぞ、二人とも」
　未来がそう言って二人をたしなめる。
「そういう未来ちゃんだって、息が乱れてるじゃない」
「そ、そんな事無いわよ」
　慌てて隠すように後ろに振り向いた未来を見て鈴菜とアリシアは思わず笑い声を上げたのだった。
「それじゃそろそろキャンプに戻って、夕飯の支度といこうか」
　ハードな訓練にもまだそこまで疲れてないのか、元気な声でシアがそう言いながら未来の背中を叩いた。
　背中を叩かれた未来は思わずたたらを踏んでその場に膝をついた。
「何だ、やっぱり未来ちゃんも足に来てるんじゃない」
　鈴菜は立ち上がってそう言った。
「……ふん」
　先程とは逆に見下ろされる立場になった未来は鈴菜の差し出された手を取って頬を軽く赤く染めた。
「未来さん赤くなってます」
「ち、違うわ。コレは夕日よ、夕日でそう見えてるだけよっ！！
　アリシアの言葉になおも赤くなって未来は反論したのだった。
「未来ちゃん顔ますます赤くなってるよ」
　鈴菜の一言で、一斉にその場に笑い声が響いたのだった。

　§§§§§§§§§§§§§§§§

「なんかキャンプみたいで楽しいね」
　訓練が終わり、一晩ぐっすり眠った後、体を伸ばしながら鈴菜は息を大きく吸いながら体を伸ばした。
「未来ちゃん、ほら起きないと、アリシアちゃんも」
　一足先に目を覚ました鈴菜は二人の頬をぺちぺちと叩いた。
「……ん……、うん……おはよう……ございます……」
　ものすごく眠そうな顔でアリシアがあくびをしながら体を起こす。
「……あと十分だけ寝かせて……」
　なんか寝言を言っている未来に鈴菜は掛けている毛布を引き離して無理矢理にでも起こそうとした。
　テントの中とは言え、急な温度変化に未来の目ははっきりと冷めた。
「……くしゅん」
「おはよう、目が冷めた？お寝坊さん？」
　可愛らしいくしゃみをしながら目を覚ました未来を鈴菜がその額を軽くこづいた。
「……おはよう……」
　未来はようやく状況が飲み込めたのか大きく体を伸ばしながらそう返した。
「ヒロさん達が待ってるだろうし、早く着替えていこう」
　先に起きた鈴菜は寝間着を脱いで下着姿になる。
「……くしゅん」
　鈴菜はくしゃみをすると慌てて服を着て二人より先にテントを出りとその視界に新緑の森が鮮やかに入ってくる。
　そしてそれきっかけで、先日宿屋の主人に聞いた言葉が頭をよぎる。
『森には何でもかわいらしい妖精とかも出るんだってよ』
　ふと思いだしたその言葉に鈴菜は頭が一杯になった。
「よし、折角ここまで来たんだもの。森を探索してみないかみんなに相談してみよう」
　何故か一人小さくガッツポーズを取ると鈴菜はそう決めたのだった。
「ごめん待たせた」
　まだ眠そうな声で未来はそう言ってアリシアと一緒にテントから出てきた。
「あれ？鈴菜さんなんか嬉しそうな顔してるけど、どうしたんですか？」
　まだ先程の笑みを抑えきれなかった鈴菜にアリシアが聞いた。
「ちょっと良い事を思いついたんだ。後で朝食の時にでも話すね」
　その鈴菜の笑みに未来とアリシアは顔を見合わすのだった。

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「ふむ、つまりこのまま森を少し探索してみてはどうか？というのじゃな？」
　ヒロは朝食を食べながら鈴菜に提案された事を聞き返す。
「うん、まだ、持ってきた食べ物に余裕はあるし、少し探索していく位なら大丈夫だと思うだけど」
　鈴菜はそう言いながら先日のホワイトデーにアリシアから貰ったネコミミズクの形をしたかわいらしいクッキーを口にしつつヒロの事を説得しようとする。
　既に頭の中では『可愛い妖精』で一杯になっている鈴菜の思考を読めるはずもないヒロは、どうすべきか思案にふける。
「確かにいずれは森の中の探索もせねばならぬのも事実、ここでひとつ経験を積んでおくのも確かに一つの手か……」
　一人では答えが出そうにもないと思ったヒロは他の皆に意見を求める。
「ボクは良いと思うよ。少し手応えのある相手とも手合わせしてみたいしね」
　シアはスープをおかわりしながら自分の意見を述べる。
「ふむシア殿は賛成か、未来殿とアリシア殿はどうかの？」
「私は鈴ちゃんが行きたいなら賛成、かな」
　未来はどちらでも良いのかそう答える。
「私は皆さんにまかせます」
　アリシアはどうすべきなのか判らないのか皆の顔を交互に見た後そう言った。
「Y.A.T.A.H.殿は……、特に意見はなさそうだの」
　いつも意見を言わないY.A.T.A.H.の事を見てヒロはそう言った。
「とりあえず賛成多数か。それじゃやる気になっているのを無碍にしても仕方がないし少しばかり行ってみるかの」
　ヒロの言葉にその場にいる皆が頷いた。
「じゃが、今回は少し入ってみるだけだからの？」
「判ってるって大丈夫だよ」
　念を押されたのにシアが判ってるとばかりに返した。
　自分の意見が通った鈴菜は思わず鈴菜はそう言って思わず両手を挙げて喜びを現した。
「やったーっ！！妖精ちゃん！！」
「……妖精ちゃん？」
　鈴菜の言葉にヒロは言っている意味は判らずも自分が大きな過ちを犯したのではないかとどこか一末の不安を覚えたのだった。

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「……みんな〜どこ行ったの？」
　森の中、気がつくと自分一人になっている事に気がついた鈴菜は周囲を見渡した。
「全くもう、またみんなどこか迷っちゃったんだね……」
　鈴菜は腕を組みながら、自分が迷ったという自覚は全くなしに考え込む。
「こう言う時は下手に動き回らずに、みんなの為に目印になってあげるのが正解だよね」
　一人納得して視線を動かすとちらりと鈴菜の視界に動く物が入った。
「あれ？なんだろう？ひょっとして妖精さん？」
　鈴菜は興味津々に何か動いた物がある方向を見た。
「あ〜鈴ちゃんこんな所にいたぁ」
　鈴菜の背後から急に声がする。
「あ、未来ちゃん、また迷子になるなんてひどいよ。あんなに注意してって言ったのに」
　いつもの事ながら自分が迷った思ってない鈴菜の言に「はいはい」とやる気のない合いづちを未来は打った。
「ヒロさん、鈴ちゃんいたよ」
　そう言って未来は後から来るヒロに合図を送る。
　ヒロが少し遅れて合流すると、鈴菜は先程動く影を見たと言う事を二人に伝える。
「妖精さんかな？かな？」
　期待に瞳を輝かせる鈴菜だったが、ヒロはその視線を鋭くして周囲を伺った。
「ふむ、予想してたよりも奥に来てしまったからの。何が出てくるのか……」
　ヒロはそう言いながら今朝の不安が的中したのだろうな、と心の中で思っていたのだった。

To Be continued…….

登場キャラクター
ENo.1155 アリシア・ウール
ENo.1684 エルシア=アルトシア
ENo.1891 ユーキ・ヒロ
ENo.2274 八月一日　未来
ENo.2704 Y.A.T.A.H.
ENo.2766 盛岡鈴菜

今回の日記はＰＭの日記とリンクしてます。