ENo.2766 盛岡鈴菜

The thirteenth day
Record of an adventure
Composite practice

「それじゃ行ってくるね」
　盛岡鈴菜は宿屋の廊下でばったりであったユーキ・ヒロに声を掛けた。
「ん？いつものアレか？余り遅くならないようにの」
　ヒロは出かける準備をしている鈴菜を一瞥してそう答える。
「了解です」
　いつものように元気な声で返事をすると、鈴菜は宿屋の階段を降りていった。
　宿屋の一階にある食堂では八月一日未来とアリシア・ウールの二人が少し早めの昼食を取っていた。
「あ、鈴ちゃん出かけるの？」
　鈴菜の姿を見た未来は声かけた。
「うん、いつものアレの為にちょっと市場にね」
　声を掛けられた鈴菜は二人の座っている机の空いてる椅子に腰掛けた。
「なる程、それにしても適正があったからって大変だね、鈴ちゃんも」
「ねぇ、アレって何ですか？」
　二人の会話を横で聞いていたアリシアが不思議に思って聞いた。
「ああ、それはね、合成のことだよ、錬金術……とも言うのかな」
　後から仲間に加わった為に、お互いが何ができるかとかまだお互いによくわかっていなかったアリシアに鈴菜が説明する。
「合成ですか……、私達の使う魔法とはまた違うんですか？」
「うん、ちょっと違うね」
「私達の使う魔法は自分達の魔力を触媒にして使うけど、錬金術はその触媒同士の力を掛け合わせるのよ、使い手はそのきっかけを与えるだけなのよ」
「へぇ、本当に違うんですね」
　知らなかったことをすらすら説明されてアリシアは感心した。
「どちらかというと未来ちゃんの作る装飾やアリシアちゃんの魔石に近いかな？またちょっと違ってはいるんだけど……」
　鈴菜は未来の言葉を補足して言葉を続けた。
「それで二人は何してたの？お昼ご飯？」
　鈴菜は先にこの場にいた二人が何をしていたのかを聞いた。
「アリシアは未来さんに魔法を教わっていたのです!!」
　未来のお手製の魔法ノートらしい本を手にして嬉しそうにアリシアはそう言った。
「へぇそうなんだ」
「丁度お昼ご飯を食べてる時に魔法の話になってね、色々教えて上げる事になったのよ」
「そうなんだ」
「未来さんは色々知っていて凄いんですよ」
「へぇ、未来ちゃん先生って訳だね」
　その【先生】という言葉に未来は気恥ずかしくなり照れ笑いを浮かべる。
「判らない所も判りやすく教えてくれるし良い先生だよ」
「良い先生、か……」
　嬉しそうに言ったアリシアを見て鈴菜はまだ照れ笑いを浮かべている未来を見て考え込んだ。
「どうしたの？鈴菜さん」
　急に黙り込んで俯き気味になった鈴菜の顔をアリシアが不思議そうに覗き込んだ。
「決めたっ！！」
　そう鈴菜が叫ぶと急に立ち上がった。
「ど、どうしたの？」
　いきなりな鈴菜の行動に驚いた二人は目を見張った。
「え、えっとね……未来ちゃんにお願いがあるんだけど……」
　先程までの勢いとは逆に鈴菜は気恥ずかしそうに言いよどんだ。
「私にお願い？鈴ちゃんが？」
「……うん」
「何々？私にできる事だったら何でもやるよ？」
　鈴菜の言葉に何故か未来は期待に満ちた瞳で答えた。
「……今度私にも魔法を教えて貰えない……かな？」
　意外な言葉に思わず未来とアリシアが視線を合わせる。
「ほら、魔法とかよく判らない私だから、変に思われるかなって……」
「ううん、そんな事はないよ」
「前に基礎だけは学んだんだけど、そっから先がよく判らなくて……」
　魔法で独学で学ぼうとした事に対して未来とアリシアは驚いた。
「ああ、私で十分協力できる範囲だね、その時になったら是非に協力させて貰うよ」
「私もその時はお手伝いしたいです」
　未来に続いてアリシアも鈴菜の求めに名乗りを上げた。
　その二人の意見が嬉しく鈴菜はつい笑みを浮かべた。
「ありがとう、それじゃまずは今日の目的行ってくるね」
「お昼ご飯は？」
「後で食べるよ。行ってきます」
　そう二人に挨拶すると鈴菜は宿屋を出て行くのだった。

　§§§§§§§§§§§§§§§§

「コレとコレと……」
　市場にやっと着いた鈴菜は軒下に並んでいる野菜や果物を物色していく。
「本当これから色々な物ができるなんて今でも信じられないよね……」
　手に取った野菜をまじまじと眺めながら鈴菜は呟いた。
「はい、これととこれだったね、お嬢ちゃんいつも買ってくれるし、可愛いから今日もおまけしといたよ」
　そう言って不器用なウインクをしてきた八百屋の親父に鈴菜も笑みを浮かべてお礼を述べる
　お礼を述べた鈴菜はお店でおまけして貰った果実を手に持ちながらその店を離れた。
　様々な店のある市場を歩きながら先程の果実を口にしつつ鈴菜アコレからどうしようか考える。
「やっぱり、一度冒険者ギルドに行って、練習するのが一番かな……、設備も整ってるし」
　そう決めると、鈴菜は一人頷いた。
「うん、そうしよう、皆に迷惑は掛けたくないし、できる事は練習しておいた方がいいしね」
　こちらの世界に来てから初めて学んだことでもあり、いくら才能があると言われた事でもやはり自信がないことは練習しないと不安な鈴菜であった。
「良し、そうと決まれば善は急げ、だね」
　果実の残りをひと囓りして残った芯を近くのゴミ捨て場に放り投げると鈴菜は走り始めた。

　§§§§§§§§§§§§§§§§

「ここで良かったよね……？アレ？」
　先程決意してから数十分後。
　本来ならば先程の市場から数分で着くはずの場所にある冒険者ギルドにようやくたどり着いた鈴菜は首をひねっていた。
「あそこの角を曲がってこっちで間違ってなかったはずだよね……」
　途中道端で昼寝していた猫を構って遊んだり、お菓子の露店にふらふら引き寄せられたりしながら道を間違えたりしつつ、ようやくたどり着いたのだった。
　この世界に来た時に、こちらの世界の文字が読めるような魔法がかかっているという話で、何故か読める看板を確認しすると、扉を開けて中に入っていったのだった。
「こんにちは、今日もいつもの練習室使わせて欲しいんだけど……」
　鈴菜は建物に入ると入り口にいる受付の男性に挨拶をして用件を伝える。
「あ、合成の練習ですね、ちょっと待って下さい……」
　受付の男性が、現在開いている部屋の確認を始める。
　開いている部屋を確認している間に鈴菜は先程の未来とアリシアのやりとりを思い出していた。
　二人のやりとりの『魔法』という言葉で以前この場所で出会った二人の魔法使いの事を思い出した。
　一人はどこか人見知りする随分自分よりも年下の金髪の少年の魔法使い、もう一人は逆に自分にとっては姉の様な感じの魅惑的な魔法使いであった。
「リィン君とサフィアさん今頃どうしているのかな……？」
　この場で出会っただけの二人だったが、この町に来たばかりだった事もあり鈴菜にはひどく印象に残っていたのだった。
　そんな思い出にふける鈴菜の事を受付の男性の声が現実に引き戻した。
「ああ、丁度さっき一部屋あいた所です。Ａの５番の部屋を使って下さい」
　そう言って鈴菜に番号を指示すると部屋の鍵を手渡す。
「ありがとう、Ａの５番だね」
　鍵を受け取ると鈴菜は足早に部屋に向かったのだった。
　その鈴菜の後ろ姿を見ながら受付の男は小さく呟いた。
「あんな女の子にまで異変を止める手伝いをさせることになるとはね、全く……」
　受付の男性はセルフォリーフに来た経緯は様々なれど、目的として異変を何とかすると言う事は変わらない異世界から来た様々な冒険者達の相手をしている自分達についついため息をついてしまうのであった。

　§§§§§§§§§§§§§§§§

　そしてそんなやりとりがあってから数時間後、鈴菜は冒険者ギルドから出てこれからどうするか考えていた。
「すっかり遅くなっちゃったな……」
　すっかり日も回ってしまった空を眺めながら鈴菜は呟いた。
「今から宿屋に帰ってもお昼ご飯とか食べれそうにないし、どうしようかな……」
　しばらくその場で悩んでいたが、寄る空腹感に鈴菜は耐えられなくなり、とりあえず適当に歩いて良さそうな店があれば入ろうという事で心の整理をつけた。
「いざ適当にと言ってもなかなか良さそうな店って見つからないな……」
　そう言って鈴菜は周囲を伺うと見慣れた後ろ姿が少し先を歩いているのを発見した。
「あの尻尾は……間違いなくシアちゃんだよね」
　その特徴的な尻尾と大きいポニーテールの髪型から一緒に冒険しているエルシア・アルトシアだと確認すると、鈴菜は小走りに近寄って声をかけた。
「シアちゃんどうしたの？今日は一人？」
「ああ、鈴菜かびっくりしたよ、ボクが一人だと何かおかしい？」
「おかしいって訳じゃないけどさ。最近あのY.A.T.A.H.って子と一緒にいる事が多かったから今日も一緒なのかな？って思っただけ」
「そう言う事……」
　鈴菜がなぜ先程の問いをしたのか納得してシアは頷いた。
「そう言う鈴菜の方こそ一人なの？」
　逆にいつも未来やアリシアと一緒にいる事が多い鈴菜が一人で街に来ている事をシアは不思議に思った。
「私はちょっと合成の練習の為に冒険者ギルドに行ってたんだ、それでこれからお昼御飯でも食べて宿屋に帰ろうかと思っていたところ」
「お昼ご飯って……」
　既に昼を大きく回って、どちらかと言えば夕方に近くなっている時間を考えてシアは呆れた顔になる。
「だって色々やっていたら食べ損なっちゃったんだもん、仕方ないじゃない」
　不満げに頬を膨らませながら鈴菜はそう言った。
　正確には道に迷っていたからとつきそうな物だが、当の本人はまるで自覚がない為にそう言う方向には全く話は行かなかった。
「まぁ、ボクもちょっと何か食べたいなと思っていた処なんだ、丁度良いし一緒に行く？」
　シアも丁度何か食べようかと考えていた為、渡りに船とばかりに鈴菜を誘う。
「確かにもうお昼って時間じゃないし、二人でこれから甘味巡りとでも洒落込んでみる？」
「賛成！！」
　まるで少女のような反応をシアは返す。
　それに何も疑いを持つこともなく鈴菜は手を合わせる。
「それじゃ、どこに行こうか？」
「向こうの通りになんか人気のお店があるって宿屋のおじちゃんが言ってたよ」
　二人はそんな風にかしましい声を上げながら街の喧騒へと消えていったのだった。

To Be continued…….

登場キャラクター
ENo.1155 アリシア・ウール
ENo.1684 エルシア=アルトシア
ENo.1891 ユーキ・ヒロ
ENo.2003 アレイリィン・ノッサフ
ENo.2274 八月一日　未来
ENo.2528 サフィア＝オンディーナ
ENo.2704 Y.A.T.A.H.
ENo.2766 盛岡鈴菜