ENo.2669 サーフェイス

街・・・街に到着して最初にやることといえば、やはり・・・

「酒でしょ」

と答えを出す人がいたら、戦友になれると思うw。
ここアンジニティでは、昼夜問わず敵と遭遇する。それも怪物だけじゃない人さえ襲ってくる場所なのだ。
そんな場所で酒なんて飲んでいたら、殺してくれと言っているようなもんで、どんな人でもたしなみ以上飲むことはない。

ただ、そんな危険な場所でも唯一安全な場所がある・・・。
そう街の中だけはどんな怪物が入ってくることもないし、人が襲ってくることがないのである。
こんな場所でも暗黙のルールが最低限存在するのであろう。

だからこそ、生きて帰ってきたときはまず最初に酒場へと行くことにしている。
自分がまだ生きていることを体感できる場所ともいえる酒が好きなだけ飲めるからである。
PTメンバーと一緒にいくかって？。行くわけないだろう。二人とも未成年だ。

そんな2/14の少し前の話・・・。街についた私はＰＴメンバーと別れ、さっそく酒場へ行くと入り口で止められる。

「今日はFHプロダクションのイベントがありまして・・・」

と酒場の店員だろうか。若い男性が行く先をさえぎってくる。酒を目の前にして少しイラっときて睨み付ける。

「ですので・・・、あっ、いや、その・・・。あっ構いませんよ。一人くらい」

急にペコペコし始める。気がつくと自分の右手が強く握り締めているのが分かる。殴りつけるとか勘違いしてくれたか、
奥へ通される。そんなつもりはなかったんだが・・・。

酒場の中は、小さいながらも多くの人達でにぎわっていた。小さいながらもステージがあり、最前列に若い男達がへんな格好をして陣取っている。
有名な歌い手が来るのだろうか。そう思っていると、さっきの店員から１枚の紙を渡される。

「名前を書いていただけますか。あとでいいことがあるかもしれませんので」

よくわからん話だが、さっと名前を書き、酒を注文する。
ちなみにこの世界の食べ物と酒は、おいしいものなんて存在しないだろうというくらいまずいものだった。
それでも酒は酒である。最初の１杯さえ我慢すればそこそこ飲めるものである。

そうして３杯目を飲んだあたりであろうか。急に拍手が大きくなり、ステージに一人の女性がいるのに気がつく。
その女性は桃色の長い髪に幼い顔立ち。ぱっと顔を見た感じを言えば女性というより少女のほうが近いであろう。
ただ、その下を見ると大きな胸が存在感をアピールしていた。遠くから見ているので顔ははっきり分かるわけじゃないが、
その胸ははっきりと分かる。

「何歳でしょう。とかクイズが出たら絶対に分からないな、これ」

と小さく微笑むと興味をなくし、視線を酒へと戻す。さて飲みなおそうと酒を飲もうとすると歌が聞こえる

「I want to with you……。冷たい雪はココロを冷まして…。」

心地よい歌だ・・・。酒を置き彼女の顔を良く見る。さっきは幼いと言ったが、良くみると随分と美人である。
周りにいて応援しているのはファンの人達だろうか。これだけの顔立ちと歌があれば、すぐに有名になるだろう。

「I'm here at any time。今夜も街は灯かりに溺れ」

「こういう方が彼女だったら、こんな世界でも楽しいんだろうな・・・」

とか思いつつ、酒を飲みほし、目を瞑りながら聞いてみる。

「I'll be surprised to you。そこには息を切らしたあなたが」

良い歌ほど寝る人が多いとか聞いたことがあるが、あれは本当かもな・・・
心地よい歌声は、やがてサーフェイスを眠りの世界へといなざうのであった。
・・・
・・
・

「　−フェイスさん」

「サーフェ・・・いますか」

何か呼ばれた気がする・・・。軽く手を上げて見ると、ドンっと地震が起きる。

「うおっ、なにがあった・・・」

ぱっと目を覚ますと、拍手と歓声が響いている。地震じゃなくこの酒場が歓声で揺れていただけか。
すると、いつの間にか目の前に桃色の髪の女性が立っている。さっきの歌姫だ。
近くで見るとやはり美人である。片耳についているそれはなんだろうと思っていると、
その歌姫が箱と紙を私に渡しこう呟く

「え、えっと抽選おめでとうございます」

「いつも応援ありがとうございます。バレンタインのチョコです。どうぞ」

「後は、当選者の方に差し上げるサイン色紙です。どうぞ」

彼女は笑顔でそう呟いた。満面の笑みを見た瞬間、ドキッと胸が鼓動する。

（・・・やべぇ、この笑顔は・・・やられる・・・）

「あ、あっ。あり、ありが・・・」

と言い切る前に、前のほうから声が聞こえる。

「おめでとうございます、サーフェイスさん。では副賞としてヴィーナよりホッペへ・・・・」

いきなり歓声が大きくなり声が聞き取れなくなる。何事だ。
自分がキョロキョロと回りを見ていると、同じく目の前の女性もキョロキョロしている。
それも顔が真っ赤になって。

「えっ、えー。」

何か彼女の恥ずかしい話でも言ったのか。顔を真っ赤にしながらあわててジタバタしている。
なんだこのパニックぶりは・・・。少し笑えると思ったら、周りより手を叩きながら声が聞こえる。

「好きー。好きー。好きー。好きー。」

「お、お前ら好き好きって、まだ会ったばっかりでそんなわけないだろ・・・」

と声に出して言ってしまう。それを無視するかのように声がどんどん大きくなる。
こいつら俺をからかっているんだな。そう思いつつ目の前の女性に視線を移すとさっき言っていた男性に何か言っている。

「そっ、そんなの聞いてません。こ、こんな大勢の人の前で・・・」

何か訴えているようだ。ただ、その男性が首を振ると、諦めてまた私の前にへとやってくる。

「あっ、あの・・・」

彼女が何か言い切る前に、彼女をさえぎるように男性が現れて、さえぎる

「よし、このハッピーな男を胴上げするぞ〜。」

「おうー。」

良く見ると最前列にいたへんな格好をした連中である。私を数人で担ぎ上げると酒場の外へ運び出す。

「おい、ちょ。まだ彼女にお礼を言ってないんだ」

「おろせ。はやくおろ・・・ってー」

と言い切る前に急に体が空を舞う。そう胴上げされたのだ。
最終的には５、６人で胴上げをしていると、さっき彼女の前に出てきたヤツが大声で叫ぶ

「これで終わりだ〜」

というと一番高く放り上げられる。と、その後頭へ大きな衝撃を受ける。
そしてそのままの状態で地面へと激突したのである。そう、誰も受け止めなかったのであった。

長年戦場を生き抜いてきたサーフェイスは、すぐに自分の状態に気がつく。
石畳の道に頭から落ちて、たぶん重症だと。頭から血が出ているのがよくわかる。

「なんていう日だ・・・」

意識を失うその瞬間。桃色の髪の女性が自分を抱きかかえる姿と、
とてもやわらかい感触が顔いっぱいに広がっているのが感じとれた・・・

つづく