ENo.1307 ペンブローク・C・ウェルシュ

ペン「うむ、我輩の勝利なのだ!!」

ペン「しかし、奴は一体何だったのであるか？」

撃退したワカメ人間。奴が倒れざまに放った言葉が脳裏に焼き付いて離れないのだ。

「私を倒したとて、日々増え続ける同志が再び貴様を襲うのだ・・・」

むぅ…もしやあのような者がまだ大勢いるのであろうか。そしてその達は日々増え続けていると…。
想像すると怖いものがあるのだ。

ペン「…む？しかし、よく考えてみれば人も日々どこかで生まれ、またいずれ死んでいくのだ。となれば別段変わったことでもないのであるか？ならばそこまで不安を感じる必要もなさそうであるな。」

そう、夜も碌に眠れずいつ襲撃をうけるかと怯える毎日を過ごさなくても良いのだ！

大体我輩はとてつもないワカメなど持っていないのだ！勘違いも甚だしいのだ！

ペン「全く…む？あれは…」

ペン「おおッ!?あれは紛れもなく街なのだ!!ここまでくればあともう少しであるな！」

遠くではあるが、わずかに視認できた新たな街に我輩の疲れも吹き飛んだのだ！
これならば今日中には十分たどり着けるはずなのだ！

ペン「……。」

何とか街にはたどり着いたのだ。たどり着いたのであるが…。

ペン「何というか、静かであるな。こうまで静かだと不気味であるな…。」

久々の街だというのに、活気も何もあったものではないのだ。
一応店は営業しているようではあるが…。

ペン「しかし、宿はあるのであろうか？野宿ばかりで疲れたのだ。温かい布団に包まってゆっくりと寝たいのだ。」

――しかし、ここはアンジニティ。

ペン「むぅ…やはり期待しただけ無駄であったか。」

案の定そんな『豪華』な宿など存在していなかったのだ。
いや、例えあったとしても今の我輩の手持ちではきっと宿泊は難しいのだ。

ペン「本日も野宿であるか…。仕方がないのだ。」

しかしそれは想定の範囲内であるのだ。
ここでめげる我輩ではないのだ!!

ペン「それにしてもこの街にもカディの姿は見当たらないようなのだ。一体カディはどこにいるのだ？」

宿を探す傍ら、というよりも宿の方がついでであったのだが周辺の聞き込みも行ってみたのだ。
しかし、目撃情報は得られず――

ペン「こうなれば次の街までまた足を運ばねばならないようであるな。では本日は早めに寝てしまうのだ。」

そうして道の端に腰を下ろす我輩。
――とても貴族とは思えない生活であるな。

と思ったのもつかの間、横になると一気に眠気が襲ってきて――

ペン「むにゃ…カディ…駄目なのだ…それは我輩の…我輩の……」

チャリッ

ペン「…むにゃ？…む…ふわあぁぁぁ…良く寝たのだ。」

少々節々が痛むのだ。せめて枕があれば…。
それより、何か音がしたような…。

ペン「む？…これは…？」

横になっていた我輩の目線の先には銀色のシンプルな指輪が。
寝る前にはこんなものはなかったのだ。

誰かが落としたのであろうか？

辺りを見回してみると、犬の亜人の後姿が見えたのだ。
我輩の他に犬の亜人を見たのは久しぶりなのだ。
ついうっかり故郷を懐かしく思っていると――彼の者は指輪を落としたことに気づかなかったのか、その姿はどんどん遠ざかっていくのだ。

ペン「む、そこのお主、待つのだ！」

慌てて声を掛けるも止まる気配はなく、我輩も急いで追いかけたのであるが――

ペン「うぬぅ、見失ったようであるな。」

手に握られた指輪を見つめ、

ペン「これは…どうすれば良いのだ？」

暫し呆然となってしまった我輩。

ペン「まぁ、向こうが気づくやもしれないのだ。次に会ったときに返すのだ。それまでこれは我輩が預かっておくのだ。」

結局それは我輩の荷物の中で保管することになったのだ。