この世界にリナが迷い込んでから、10日近くになる。
同行する仲間との連携も取れてきたし、仲間以外にも顔見知りが出来た。
そして、エスカーラは、簡単な文章であれば一人でも問題ないほどに文字が読めるようになった。

「こないだ街に行った時にね、エスカーラに良い本を見つけたのよ」

リナは、そう言ってエスカーラに本を手渡す。
ピンク色の表紙に、動物の絵が描かれている。そして、「ソルフェージュ」の文字。

「わぁ、可愛い…ありがとうございます！
………でも、「ソルフェージュ」って、何ですか？」

愛らしく首を傾げるエスカーラに、リナが説明する。

「ざっくり言うと、楽譜見ただけで音をイメージ出来る技術よ。
…今までも少しずつ練習はしてたけど、やっぱりきちんと勉強した人の作った教材でやる方が色々良いと思って」

「…えっ…リナさんよりすごい人、いるんですか…？」

リナの説明を聞いて、目を丸くするエスカーラ。
その様子を見て、リナはからからと朗らかに笑った。

「あったり前じゃない、私は最低限の勉強を終えて、これから…ってところのひよっこだもの。
そもそも、私は実技の人であって理論の人じゃないから、体系的にまとめるのってそんなに得意じゃないし」

「…そ、っか…そうなんですね…
…人間って、すごいんですね…」

エスカーラは、エンブリオの素朴な文化の中で育ってきたため人間の知識・技術の集積度に明るくない。
そのため、リナの初歩的な識字・読譜学習でさえ、驚くことの連続だった。
…しかし、人間の知識・技術の集積の高みはこんなものではない、ということを知らされ、エスカーラは今目眩に似た憧憬を覚えていた。

（…私達の仲間が、わざわざ契約なんて縛りを作ってまで、人と一緒にいるのは…この感覚のため、なのかな…？）

（PL/E-No.1578　海谷　未夜さんとキャラクターロールした内容を日記に反映させて頂きました。感謝を。）