ビブリオバベルの父、リソジーノムスは天才的な召喚術士だった。

彼は自分の娘が、
妻、リューゼリゼの腹の中で既に死産していることを知ると、
これまで研究してきた召喚術の中で
もっとも禁忌とされた類のものを、自分で試してみることにした。

それは彼の持つ歴史書の中でも、
数多に渡る記載があり、しかし成功例は少なかった。
だが、自分であればできるという根拠の無い確信があった。

己の肉体と妻の肉体の一部を触媒として召喚した魂を、
空っぽになった器に注ぎ込む。
していることは生殖行為のそれとほぼ同じだ。
理論上は、最初産まれようとしていたものと
極めて近しい存在が産まれるだろうと。

かくして、ビブリオバベルは産まれる前から
二度目の生を受けることとなる。
はたして、産まれたその子は特筆すべき異常も見られず
極々普通の人の娘として健やかに育った。
その頭に浮かぶ魔法陣……彼女がどうしようもなく
召喚獣であるということを示している証と、
左眼の流星眼を除いては。

ビブリオバベルが齢6つを迎えた頃、
リソジーノムスは彼女の生い立ちについて説明した。
内容を理解したのかしていないのか、
ただ呆然と父親の言うことを聞いて、その瞳を見つめる娘は、
果たして何を想っただろうか。
その日から、彼女は頭に浮かぶ光輪を隠すように
帽子を被り、眼鏡をかけるようになった。

　

　　　　　　　と呟いて去っていく背中を見送る。

　

　　　　　　　───長い溜息を吐いた。

　　　　　　　………黙った。

　　突然の貴方の反応に、予想外だとばかりに
　　おっかなびっくりに問いかける

　　しばらく、うんうんと話を聞いていたが
　　あまりにも長い間喋っているので、同じような内容になると
　　ややも薄い苦笑いのような表情をする

　　それなりの時間が経って、貴方が一呼吸した隙に
　　ようやく口を挟んだ