（古風だが丁寧で達筆な文字で記されている）




"ネクター" 。


数えきれないほど多く点在している分割世界。
その中でも、元素の世界メルンテーゼにのみ植生が確認されている、紅い花。

このネクターが保有している性質と、
魔鉱物が保有している性質には、似通った点がある。



通常の植物には無く、ネクターがだけが持つ性質。
それは、 "エンブリオ" との契約を可能とすること。
メルンテーゼには、エンブリオという、
多種多様な能力を持つ生命体が存在している。

他の分割世界では、精霊、魔族、天使、悪魔……
そのようにばらばらに呼ばれている、通常の生物よりも高位な存在。
それらがこの世界では、一括りにエンブリオと呼ばれる。

エンブリオに生命力を提供することで、その力を借りることができる。
いわば、生命力を対価に結ぶ契約。
この契約を結ぶためには、ネクターが不可欠である。
どんなに強力な戦士も、強い魔力を持つ術者も、
ネクター無くしては、エンブリオとの契約にはこぎつけない。

それがこのメルンテーゼのルールだ。




"魔鉱物" 。


通常の鉱物とは違い、その内に魔力を秘め、
独特の超常現象を発生させる鉱物。

魔鉱物の魔力源は、その鉱物自体でなく
鉱物とは別の場所に存在しているというのが僕の持論だ。
魔鉱物が魔力をもつ、というのは、厳密に言えば適切な表現ではない。
魔鉱物が保有しているのは、魔力を別世界から取り込み、
展開するための "ゲート" ……言うなれば召喚門だ。

そう、魔鉱物は須らく召喚門なのだ。
燃える石は別世界の炎を呼び寄せており、
重力に逆らう石は、斥力を別世界から引き寄せている。

一体どういう原理でそうなっているのかは未だ判明しない。
異論も多くあるが、僕はこの説が正しいことを確信している。




ネクターの "契約する力" 。
これに魔鉱物の魔力発動原理を解く鍵が眠っていると僕は考えた。

ネクター全てにこの契約する力があるのと同じように、
魔鉱物には、鉱物それぞれで、魔化した際の発揮効果が決まっている。
燃える魔鉱物は燃える以外の力は持たない。

言ってみれば、魔鉱物は各々、エンブリオではないにせよ、
外世界の魔力源と“契約を結んいる”のだ。
僕はこの仮説を軸にして研究を進めることにする。



まずは、ネクターの組成分析からだ。




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（丸みを帯びているものの丁寧な文字で記されている）




エリスについて分かっていること。

この子は、物理的な攻撃よりも魔法による攻撃が得意だ。
それも対象の内部から働きかける、精神魔法をもっとも得手とする。

昨日使えるようになったナイトメア——対象に、
今まで経験してきた中で最も苦痛だった体験をリフレインさせる技は、
極めて危険で、かつ強力だ。

とかく、自分で契約している分には、これ以上頼りになる技は他にない。
昨日も兵舎の奥で待ち構えていた、
厄介な兵士達をビブリオバベル一人で斥けることができた。

この子との契約は、拾い物的ではあったが、
非力な自分にとっては僥倖であったと言えるだろう。

ビブリオバベルは、魔硬石膏を銃に込めて、
空へと打ち出した。
すると、空中に出現した魔法陣から白い羽が舞い降り、
エンジェルが姿を現す。

最後にと、ビブリオバベルはネクターを一輪、
彼女に向かって差し出した。

その後、ビブリオバベルの前に姿を現すことはなかった。
　
　

　　自分は警戒心が強いという言葉をきいて
　　呆れたように、大きな瞳が少し細まる

うさんくさげに距離を取っていたが、
キラキラと輝く色違いの瞳に気圧されて面倒くさげに喋り出した。

　
　　　　　　あくまで冗談に応じるように笑って、手を振った。
　　　　　　 この前知り合いがカーバンクルから宝石をはぎ取ってたのは羨ましかったけど・・・
　　　　　　 などと、ぼそっと呟きつつ。　

　
　　　　　　どこまでが本気か判らぬ物言いをすると、肩をすくめる。
　　　　　　 他者が力になれることは、そうそう無さそうだ。　

苦しそうにしているのに気づくと少しだけ腕を緩める。

緩んだ腕が今度は優しく、抱きしめたまま髪や耳を撫でていく。すごく、その、なんだ、いやらしい。

親と離れたことを全く気にしていない様子だ。

もじもじと後ろ手に
しっぽをパーカーの裾で隠そうとするリブリ。

少女に鼻ツンされ、ひるむリブリ

が、しおらしい言葉も束の間。
イシュメールは駆け寄ったビブリオバベルから一歩身を離すと、いつもの済ました態度に戻る。
若干だが、いつもより警戒感を強く感じるのは気のせいか。

瞬間的に、背筋が粟立つような感覚を覚えた。
目の前で何事かをつぶやいている少女がどこかへ行こうとしているような危うい感覚。
咄嗟にイシュメールはその両の頬を張りつつ、怒号を叩きつける！

そこでふと自らの羽に触れると手をつ…と滑らせた。その動きに合わせて羽にきらきらと魔力の光が走る。知覚できない者にはその光は見えないだろう

そう言いながらシェーンは人差し指を立てると唇に当て、にこっと微笑んだ。