あの子は本当に明るい子だった。

周りの人間を愛し、愛され

笑顔の絶えない太陽のような子だった。

あの日が訪れるまでは————


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　あの日、私達は故郷を追われた。
不可抗力とはいえ、あの地の神を、あの子は殺してしまった。殺せてしまった。
あの子の育ての親は、暴走した神の手によって死に、私達を擁護する者はいなかった。
村を追い出され、山を下るとき、あの子はずっと泣いていた。

　世俗に出てからも、私達に対する風当たりは非常に強いものだった。
あの子の目が紅いだけで「悪魔の子」と罵倒され、石を投げられた。
それでもあの子は泣かなかった。




泣かなかった、というより、泣けなかったのかもしれない。




　おそらくあの子は、あの日に散々泣いて涙を涸らし、
悪魔と呼ばれ、石を投げられた時に、
自分の身に起こるであろう運命を察し、諦めてしまったのだろう。
あの子の夢であった「村の外の世界を自由気ままに旅する」—————


それは、叶わぬ夢だったのだと。


　それを思えば、今ここで仲間と共に旅ができるこの世界は、
あの子の望みをそのまま体現した、夢のような世界なのかもしれない。

　現にこの世界、メルンテーゼに来てからあの子の表情から曇りがなくなった。
元の世界でも明るく振舞ってはいたが、村を追放される前と比べたら
おそらく私にしかわからないだろうが、張り詰めたような笑顔をしていた。
見てるほうが苦しかった。

　いつか元の世界に帰るのだから、この世界にいる間だけは、
太陽のように笑っていて欲しかった。
それは今では曇っている—————

　


ミクネは今、ロスの言葉をどのように受け止め、何を考えているのだろうか。

青年はため息と共にそんな呟きをこぼす。
かと思えば、その長身痩躯がユラリと幻の如く霞み消えた。
入れ替わる様に出現したのはヒトよりも遥かに巨大な金の竜である。

バサリと翼をひと打ちしてそういえば、咆哮を上げるのだった。

魔異を遠目に観察する青年のその隣。
一人、気炎を上げる者が居た。コカトリスのステファニーである。
彼女は憤懣やるかたないといった表情でぼやいていた。

そんなやり取りにぎょっとしたのは青年である。

止まる気皆無の様子に盛大なため息。

少女なりに、付いて行けない流れに付いて行こうと、努力したらしい。
耳を傾け、首を傾け、ゆっくり吟味するように閉じ、開いた目。

特に理由のない曲解と誤解が、ツッコミ役を襲う。