真朱は多くを語らなかった。
あるいは、語るべき言葉を選り分けるのに失敗して、何も語れなくなってしまったようにも感じる。
ただその声は、契約とともに失くした身体の代わりに、ちからの結節点として私を憑坐にしているとだけ告げた。

肉体を失ったこと自体は、真朱にとってさほどの大事ではないようだった。
わたしはここにいます、と真朱は言う。





私には、それが本心からの言葉なのかどうかは判じかねた。
だがとにかく、私と共にあることで真朱が消えずにいられるというのなら、気が済むまでそうしていれば良いと、思う。
私はそれを拒みはしないだろう。 たぶん、ずっと。

見捨てられる痛痒を知りながら、それを他人に強いることなど……とても、できない。
必要ないと、生きようと死のうと知ったことかと、そう突きつけられるあの感覚。

脳裏を掠めた父の顔。

私は今、父と同じことができる。
その選択肢がこの手にある、それだけのことが、それだけで、ほんとうに恐ろしい。
この身に流れる父の血が、……父と同じことを選び得る、自分のこころが。

違う、と強く自分に言い聞かせる。

私は、誰も拒まない。
私を受け入れてくれるひとが、ほんの僅かでも、いるから。
片角の私を、こんなどうしようもない私を、隔てずにいてくれるひとが、いるから。

何人かの顔を思い浮かべて目を閉じる。
香りのない作り物の花を、壊れないよう、そっと握りしめた。

黄昏を宿したほのかな焔の一塊が、燈子の影から静かに滑り出た。

焔は音もなく、ほのかに瞬いている。