マァムブ内の喫煙室近く、いつのまについてきていたのか、
背後からついこの間協力を要請した相手の声が後ろからやってきた。

足を止めて振り返ると、にこにことした男の糸目とぶつかる。

一見心配でもするような言葉に、半眼に目を下ろした。
ギルド『メルンストゥーラ』を率いるリーダーを癒すために呼んだ
この旧い知り合いの男の、ややも表面がくたびれた緑スーツを見やる。

不満げな声に同意する。技術は兎も角として、
人格的には、かけらも信用をおいていなかった。

ヒトの良さそうな顔をした変態、との判断を修道服を着る前に下した相手だ。
体調の心配をしているのだとは思えなかった。

「人格とか、顔とかぜんぜん好みじゃないんですけど、
　骨格だけ気に入ってるんですよねえぇ」と、
まったく悪びれた様子もなく、医者を職業としている男は笑った。

それまでの対峙よりもきつくにらむと、へらへらと身を引く。
大概なら、それで終わる話だった。これまでは。

けれど。その日ばかりは、先に話が続けられてしまった。

否定せずに医者が笑う。でも、と緩んだような口元が音を紡いだ。

細目の奥からの視線と目が会う。それを避けるように、斜め下に顔を背けた。

或いは意図的に、ねずみでも追い詰めるように医者が先を続けた。

笑ったような声が、無遠慮に尋ねくる。

視線のすぐ先で、ちりちりと煙草が身を削り燃え尽きていく。

それを見やりながら、修道士は、医者の推測を肯定した。







　　　◆◇　◆◇◆　◇◆　






ギルドから『犬』のストゥーラの持ち主が消えたあと、
そいつが残していった品を整理する機会があった。


収穫は犬が数匹と、闇取引で売り捌けそうな品物、
まあそんなところだろうと予測をしていたそれらに加えて


なんと、探していた聖アウグゥトス様の日記の写本の一部が見つかった。

正確には、それを持っていた人間がだ。


ウィミノイウェーブは商業の街で──そこに信仰を持ち込もうとした修道士が、
街で"どういう経緯か"エンブリオを失い、奴隷に落とされていたらしい。


修道院長から探せ、といわれてはいたが、
こんなところに間抜けに転がっているとは思わなかった。



余計な手出しをしたくねェってのはあったから、
当然といえば当然かもしれんが

ギルドから借り受けている自室で、余計なものを処分したのち、
手元に残した、聖人の日記のページを繰る。

後半に行くにしたがって、乱雑に荒れていく文字をぱらぱらと見下ろした。



そこに書いてあったことの意味を端的に抜き出してしまえば、
俺にとってのこの話は一行で終わる。


つまり、どうやら、あるいはついに、

　　近々俺は死ぬらしい、という話だった。

作製依頼受け付け中
Lvは19、依頼はホーム、もしくは伝言にお願いします。