エンジェルちゃんが持ってきたそれは、どう見ても本だった。
　エンブリオでもなく、あたしが連れてきたというか作ったというか、そういう存在らしい。
　
　エンジェルちゃんに促され、本を開くと最初のページにはこう書いてあった。

『俺は、とある本とその作者の想いと彼女の力で生まれたモノ』
『彼女の足跡を綴る本』

　これは、昨晩エンジェルちゃんが、この本に何者なのかと問いかけた時の答えなのだそうだ。
　この文字を見た時、あたしが思い出したのは、前の世界での出来事だった。
　そこであたしは、お父さんが書いた本に良く似た本を見かけた。
　見たはずなんだけど、一瞬だけ視線を逸らしたら、消えてしまっていたから幻覚なのかもしれない。
　と、思っていたけれど、やっぱりそれはそこにあったんじゃないだろうか？

　つまり、この本が言っている（書いている？）とある本とその作者というのはお父さんの事なのでは……

　そう思って尋ねると、本が返事を書いてきた。

『違う』

　人だったら即答ともいえる速度で綴られたその文字は、あたしの考えをあっさり否定した。

　じゃ、どうして”あたし”なの？
　それとも、あたしにはそんな力が元々あるってこと？

　矢継ぎ早に質問を投げかけると、今度は本も少し悩んだようで、次の文字はゆっくりと綴られた。

『分からない。でも、俺の元はキミの父親でないことは確かだ』

　”本”というくらいだから、何でも分かるのかと思っていたらそうでもないみたい。

　そして、あたしはもう一度思い出す。
　あの時見た本は、確かにお父さんの本と似ていた。
　でも、決定的に違う部分もあった。
　だから、似ているけど違う本なのだと、あたしは初めから知っていた。

　少しだけがっかりした。
　お父さん本人ではなくても、お父さんから生まれたものなら、
　それはお父さんが伝えきれなかった事を伝えてくれるはず、そんな期待をしていたから。

　本には作者の記憶もあるらしく、どういう人だったのか聞いていると、
　お父さんに似ているような似ていないような人だった。
　何なんだろうね。

　結局、よく分からない事だらけってこと。

男の表情は淡々としている

少女がきょろきょろとしながら君のほうに向かってくる。

自分で言ったことに自分で突っ込みを入れる。少し息を吸うと、

そう言うと、自分の名前を名乗る。