真夜中。

　イオナが、
『……もぅこれ以上キノコ食べられないよ〜……むにゃむにゃ……』
　と定番の寝言を言っている頃、動く影があった。



　──ハニワは、気付いていなかった。

　先に契約した者も、後から契約した者も、みんな仲間でみんな仲良く。
　それだけを考え、現状に満足していた。


　──マーメイドは、気付いてないフリをした。

　ソレに怯え、極力視界にいれないように過ごした。
　そうすれば、なかった事に出来たから。


　──ウィスプは、興味があった。

　しかし、ソレはまだ形を持っていなかった。
　ウィスプが近づくと、力が解けてしまう。だから、時を待った。


　──ゴレムは、見守っていた。

　ソレは、力を与えるものでも、害を与えるものでもないと知っていた。
　主人が何も言わないのなら、行動を起こさなくてもいいだろうと。


　──エンジェルは、話しかけた。

　ウィスプが近づこうとしていた事も、マーメイドが怯えていた事も知っていた。
　エンジェルも、ウィスプと同様に待っていた。
　だから、ソレが落ち着いた時に、真っ先に近づいて、ソレを手にした。
　そして、問い掛けた。

　あなたは　誰ですか？



　──キラーウルフは、見た。

　キラーウルフは、エンジェルを探していた。
　殺しの数が強さを決めると思っている彼は、契約エンブリオの多さにやや不満を感じていた。
　それでも、一番の古参であるエンジェルは、彼にとってライバルとなる。
　それなりの挨拶と自己アピールをするつもりだったのだが、
　その時、彼が目にしたのはエンジェルだけではなかった。
　
　闇の中なのに白くはっきりと見えるエンジェルは、自身と同じように白い『本』を手にしていた。




　エンジェルの問いにソレは答えた。
　『本』が開き、白いページに黒い文字が浮かび上がる。

『俺は、とある本とその作者の想いと彼女の力で生まれたモノ』

『彼女の足跡を綴る本』