「あいつは親の七光りだから」

入隊してからずっと言われてきた。
それに対して特に怒ったことは無い。
俺が城の兵士になれたのは親父の口添えがあったのは多分事実だし、
そもそも親父がいなければ兵隊になろうなんざ考えもしなかった筈だ。

だから、自分の護衛場所が兵舎だと言われた時も特に怒りは無かった。
「お前の父親が生前就いていた区画を任せる」と聞こえのいいことを言われたが、要は厄介払いだ。
華々しい功績を上げ、信頼されていた分隊長が新王に逆らって死んだんだ。
そいつの出来の悪い息子を適当にあしらっておくにはちょうどいい場所だったんだろうさ。

ただまあ、怪我で満足に動けねえジジイが守った場所と部下なんだ。
このままただいうこと聞いて大人しく兵舎でお留守番ってわけにも行かねえ。
一揆の連中で骨がある奴らはむしろ通ってみればいい。その先の奴に勝てるかは知らねえが。

どうせ俺が適当にやったって「いつものこと」なんだ。
精々そう思って俺等を放置していればいい。





歩きながら、綺麗な街のようねと少し的はずれなことを思った。
両側に全く同じ形をした赤い屋根の建物がずっと並んでいて、道には所々木が植えられている。
兵舎と言えば男性が多く住むところだが、整った風景はグレンダにはあまりそうは見えなかった。

そんな呑気なことを考えている場合ではない。今は敵陣の真っ只中に1人である。
別の場所へ移動しようとする3人に頼んで残らせてもらった。
どうしてもここであの時見た光景が何だったのか確かめないといけない気がしたから。


「ラケルト隊長ッ！！あれはもしやッ！！？」

「おいおいおい・・・・・とんでもねぇなぁ一揆軍って。」


叫び声とほぼ同時に接近者に気付いた。
隊長と呼ばれた男を見て、一瞬心臓が止まるほど驚いた。さっき見た映像にいた男にそっくりだったのだ。

でも良く見るとそれよりずっと若く、別人だ。
あの時は少し足を引きずっていたようだが見る限りそんな様子もない。


「ここで、足止めをするつもりでしょうか」

「そりゃまあ、ここ兵舎だぜ？突入してきた奴はいそうですかって通せると思うか？お嬢ちゃん」

「できることなら戦わずに済ませたいと思っています。それに——その前に教えてもらいたいことがあるんです」

「あー・・・悪いな、そうやってそれとなく引きこもうとするの、駄目だわ」

「別に、そういうわけでは」

「一揆軍と城の兵士、特に話す言葉は必要ないだろ？どうせ言ってもお前らにはわかんねえことだしな」

「それはこちらの台詞です・・・私達の世界のネクターを奪ってまで何がしたいんですか？どうして新王に従うのですか？」

「あ？いやちょい待ち、なんだその『私達の世界のネクター』って」



「お前はメルンテーゼの人間だろ」



















目の前の男にそう言われても全く意味がわからなかった。
私が、メルンテーゼの人間だなんて。第一、どうして初対面なのにそんなことが——

・・・そういえば以前行動を共にした鳥人の女性にこう聞かれたことがある。


“エンブリオがいないのに、ネクターみたいなものがあるの？
契約する相手がいないのなら、何に使ってるのかしら…？”


エンブリオとの契約のためではなく、世界レベルで関わるネクターとは不思議だ、とも。

でも、私はメルンテーゼの人間じゃない。
私の故郷は生まれた時からずっとゴードニアで、私はそのためにメルンテーゼまでやってきて——


“神官は知っていたのに、王女さまである貴女は知らなかったの？”


違う、きっと神官様には何か理由があったはずだし、私がゴードニアから来た異世界人なのは疑いようもない事実なはず。
なのにどうしてこんなに不安な気持ちになるのかしら？

集中できないでいる私に構わず、目の前の男はどんどん話してくる。


「あー、覚えてねーか。まあなあ、どう考えてもあの年のままって感じだしな・・・」

「なら仕方ねえか。何で出てきたか知らねえが、お前みたいなのの来るところじゃねえよ」

「これもあの影響って奴なのかねえ・・・」

駄目、全然何を言っているのかがわからない。
このまま話を聞いてくれないのなら、この人に勝つしかないみたい。
勝って、今何が起きているのか、教えてもらわないと。

蛍は声色は、真面目なものから最初の少しふざけた感じに戻っていた。

そう言って蛍はグレンダの前から姿を消していった……

故郷の話を笑顔で始めるグレンダを興味深そうに眺める白雪。

そこで一息を入れようと、携帯糧食をグレンダに差し出す。
お姫様に差し出す物ではないのですけどと、言い白雪は微笑む。

白雪はゴードニアの産業や風習、そして異世界の素材や技術に興味があるようだ。

そう言ってグレンダの言葉に同意するかのようにうなずく。

そう言うとロックはニカっと笑ったのだった。今の状況を、とても楽しんでいるらしい。

瞬く間、という言葉の通りに。
クリスは言うが早いか、もとの少女の姿に戻った。