[SummerVacation]

ボクが初めて経験する夏が来た。

青い空、白い雲。そんなお決まりのフレーズすらボクにとってはとても新鮮なことで
ムシムシするこの異様な湿気も、刺すような日光も、やかましすぎる蝉たちもボクにとっては全てが心地よく感じた。

そして、路上に転がり今まさに最期の時を迎えようとしている蝉の姿も。







イブリスホームのすぐ近く、シヤンハイルの町では毎年夏になると近くのビーチで納涼祭をやる。
マリアたちも商工会の手伝いをして、運営の手伝いをやったり出店を出したりするらしい。

この日はボクたちもちょうど遠征と遠征の合間で孤児院に帰還していたので、今年もつつがなく納涼祭の参加が決まった。

孤児院メンバー総出で今日はビーチに来ている。いつもの四人だけではなく、今日はルイーザやリーズル、他の子供達も一緒だ。
戦いに来たわけではないからね。

協賛らしいキーン商会なるもののプリントＴシャツをマリアが全員に配る。

そりゃそうか。

確かに中央庭園のラベンダーは見事だった。しかし一般人がよくあそこに入れたなぁ。

お茶をとりにいってたマリアが戻ってくる。

みんな揃って酷過ぎる。

しかしかく言うマリアも今日は大分酷い。

会場の設営をするということで水着は着てないのはしょうがないとして、

ジャージに、キーン商会のプリントTシャツ、頭だけ何故かいつもどおりヴェールをつけていてかなりキてる。

設営された露店にはためく「味自慢焼きそば」の旗。味自慢が相当うさん臭い。

ボクは設営されたテントに山積みになったアオサの段ボールに目をやる。
本当詐欺だよね・・・。
星屑の小川とか言っておいて採れるのはアオサばっかりなんて酷過ぎる。

ボクはトボトボとビーチに向かって歩き出す。
まぁボクほどのルックスであれば渚の男達の視線は釘づけに違いない。

びっくりするほどステレオタイプのナンパだが最初はこんなもんだろう。
軽くあしらってやろうと颯爽と振り向くと

そう言ってナンパ男は去って行った。ボクの心に小さな傷とイカ焼きを残して。



イカ焼きを食べながらビーチを歩く。良く見たら年寄りと子供ばっかりのビーチだ。

さ〜っと顔から血の気が引いて行くのを感じた。

ボクはイカ焼きの串を投げ捨てて、アオサ焼きそばの露店のほうに戻り始めた。




しかし、何か、露店の方向に戻るにつれて人の密度が増えてくるように感じる。

やがて長い長い行列が見えてくる。なんかクジか抽選のイベントでもやってるのかな？

そのまさかだった。

長い行列は、うさんくさい「味自慢焼きそば」の旗に一直線に向かっていた。

孤児院最年長のリーズルが列を誘導している。

露店ではリヴァランが鬼のような形相で焼きそばを焼き続けていた。

無茶苦茶な都市伝説まで生まれていた。


ルイーザも頑張って売り子をしている。

さっきのイカ焼きの男だ。そういえば行列には若い男が多い。B級グルメだから、まぁ当然か？
若い男たちがいないってわけではなく、こっちに来てただけだったのか。

打ちひしがれている間にも焼きそばを求める人たちの喧騒は絶えず続く。

ボクは露店の隅に畳んであったキーンＴシャツを着て、ルイーザの隣に並んだ。

押し寄せる人達にせっせと焼きそばを渡し、お金を受け取る。

ビーチで一人ブラブラ歩いてるより、案外こっちのほうが楽しい気もした。







あれ？そういえばノエミどこだ？相変わらずサボってんのかな・・・。

ボクはほんの少しだけ自信を取り戻し、来年の夏こそはと固く心に誓ったのだった・・・。

シヤンハイル町内納涼祭。本当の恐怖はこれからだということを、この時のボクは知る由もなかった・・・。




Eno667 マリア・イブリスの日記へ続く。

ハルが少しばかり訝しげな表情でイリヤの顔を見つめる。

要するに、この2人は単なるお祭り騒ぎとしてこの一揆に顔を出したわけではないようだ。

ヘリヤだけにでなく、自分にも言い聞かせているような…そんな言い回し。

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あくる日、近くの海岸にて。

トガノが微笑を浮かべながら水着姿のヘリヤに向かって一礼する。
海岸だというのに、その格好や態度は普段と変わらない。

ヘリヤの姿を一瞥すると、より一層笑みを強めて提案した。

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人気のない海岸ににぽつりと座り込んでいたのはハル。
彼もまた、水着等をつけているわけでもなく、普段どおりの姿でその場にいた。
…付人の姿は近くには見られない。

突然咳き込み始め、自らの胸をドンドンと叩く。

背負った薙刀を引き出し、構える