[SummerVacation]

夜。ボク達は祭りが終わった後、ビーチの宿泊施設にいた。

昼間に納涼祭のお手伝いをしたことへの町長さんからのお礼で一晩貸し切りなのだそうだ。
イブリスホームでは、この夜の宿泊もこめて毎年恒例の行事になってるらしい。

マリアはいない。この日だけは子供達だけで炊事など全てやることになっている。
まぁ、元々日頃から皆手伝ってるので単純にマリア一人分の労働力がないってだけで皆お手の物だ。

キャンプファイヤーをしてから消灯時間が近づくと恒例の怪談噺の時間になる。

もっとも消灯時間と言っても名ばかりで、皆年に一度の子供だけの夜を楽しむのが恒例らしい。

リヴァランの話はあっさり打ち切られる。

そう言ってルイーザは視線を横に向けた。

怪談語りが終わったら教会裏の墓地で肝試しが恒例らしい。

墓地といっても、イブリスホームが教会として機能していたのはもう二百年以上も前の話で
実際にはもう誰のものともわからないあまりに古い墓である。

もちろん、怖いことに変わりはないんだけど。


シヤンハイルの森の入口からこの墓地を通って、もう一度ここに戻ってくるのが今年のコースらしい。
ペアを組んで行動して交代して行くそうだ。何でも肝試しといえばこの形が基本なのだとか・・・。


ボクはまっさきにルイーザとのペアを名乗り出た。
後述するけど、そうじゃなきゃちょっと都合が悪かったのだ。



先行のリヴァラン、フリードリヒ組はあっさり帰ってきた。

あーあー、君達はそうでしょうよ。如何にも気にもしない顔で帰ってきてさ。

そんな感じでバトンタッチして今度はボクとルイーザペアがスタート地点を後にした。

と、何だかわからなかったので意味を問おうとしたその時・・・

・・・。

シーン・・・・。

ボクとルイーザは全力でダッシュする！！！！

すっかり混乱して道なき道を走るボクとルイーザ。

無我夢中で走ってるうちにいつの間にかコースから外れていた。
息が切れてきてようやく動揺も少し収まり、歩を止める。

振り返るとルイーザの姿はなかった。


途中まで手を握ってたはずだったが、うっかり気がつかなかった。

ボクの背筋にゾワゾワっと戦慄が走る。

この時間帯に一人にするとボクが仕込んだ魅了が発動してしまう。

ルイーザに仕掛けた魅了はスイッチ発動式だった。
当然だ。常に作動させてたらすぐにバレてしまう。

大体普段皆が寝静まる時間帯、ルイーザが一人きりになったときだけ発動する。
そうなるとルイーザは昏睡状態になり、教会の探索行動を始める仕組みになっていた。

恐らくルイーザは今自我を失い教会の方向に向かってるだろう。
教会にはマリアがいる。今この状態のルイーザを見られるのは非常にマズイ。



ヘマをした・・・！ヘマをした！！


ボクは慌てて来た道を駆けもどり、教会へと全力で走る。

木立の間を駆け抜け、枝から枝を飛び移り、少しでも少しでも、短いコースで。

孤児院にももういられないだろう。ボクの頬を嫌な汗が流れる。
まいったな・・・。スイッチをもう少し丁寧に考えておくべきだった。


昼の部で一緒に焼きそばを売った思い出がふと頭をよぎる。


いつかは・・・。でも、今は・・・もう少し・・・。




教会に先回りした。マリアはバルコニーで夜空を見つめていた。


何をするわけでもなく、まるで、何かを待っているように。

ルイーザはまだ教会には着いていないようだった。

ボクは教会周辺をもう一度丁寧に探すことにした。







・・・結局、ルイーザは教会から少しだけ離れた朽ちた小屋の傍で立ちん棒になっていた


なにやら落ちている小さな金属？のようなものを見つめている。

どうやらルイーザはこれに『引っかかって』いたらしい。

ボクはほっと胸を撫で下ろした。

目の焦点があっていないまま立ちん棒になっているルイーザに近づき、そっと手を握る。

皆の所に戻ると、ボク達が中々戻らないので大騒ぎになっていた。

ついさっき、リヴァランとフリードリヒが探しに出ていったらしい。悪いことしたな。

途端にノエミの顔色が変わる。

シーンと静まり返る一同。

夜のビーチに、孤児院一同の叫び声が響いた。


















ボクが初めて経験する夏が、もうすぐ終わろうとしている。

ここのところ暑さもほんの少しだけ和らいできたのがボクにもわかる。
ムシムシする異様な湿気も、刺すような日光も、やかましすぎる蝉たちも
ボクが心地よいと感じた全てのものが少しずつ終わりを迎えて行くように感じた。

そして今日も路上に転がる、最期の時を迎えようとする蝉の姿。

ボクはそっとしゃがんで蝉の姿を覗きこむ

さっきまでジタバタと羽を動かしていたが、もう動かなくなっていた。

〜to be continued

http://arcana.mints.ne.jp/ikki/day_7_sideB.html

何故かドヤ顔になっている————。

言って腕をまくって力瘤を見せつける。
白い肌にポコリと貧弱な力瘤が出来た。
どうみても非力だった。