◆第5話　男です◆

目の前では男装の女性エルと、赤髪の美女アリアが仲良さそうに言い合いをしていた。
エルが一方的に怒るのをアリアが言葉巧みに交わしているのだが、そんな二人だけの世界に置いてけぼりを食らったまま、まずはお水を一杯口に運ぶ。
視線を巡らせれば、相好を崩した教授は女性二人をニヤニヤと眺め、鳴丸は若干緊張した面持ちでテーブルの上の食事をつついていた。
状況を少し整理してみる。
学生の本分たる学門の追及の為、一揆のレポートを作成しようと王都までやってきた。
拠点にする予定のホテルを解約して、教授が用意した一軒家を探すことになったのだが、ホテルの外で待機をしていたはずの変態教授が本領発揮し、更衣室を覗き見する事件に発展した。
そういえば鳴丸君は鼻血を噴いていた。
いやそうではなくて、一同で逃げることになった。
追ってきた警備兵さんを物理という名の説得でねじ伏せ、一安心したのも束の間、謎の黒服の集団に囲まれる。
そこをアリアさんが助けてくれたのだ。
鳴丸君の活躍と、教授の謎の発明品のおかげで、敵を縛り上げて逃走をすることに成功。
アリアさんの相棒らしき人物の手引きで飲み屋とおぼしき飲食店に入り、個室に隠れた、という流れである。

最近の行動を細部まで、じっくり思い出していると、唐突にアリアとエルが振り返る。
どうやら話がまとまったようである。まったく聞いていなかったのだが。

こくこくと頷くアリアとエル。見ようによっては姉妹のようでもある。
中世的な顔立ちのエルは男装をしてはいるが、なるほど、確かに言われみれば女性特有の丸みがあった。

経費万歳。
教授にはまだ黙っているが、豪華なホテルの解約金もたんまりとある。
なんとなればそこから捻出すればいいかと軽く考えながら、雇った場合の今後の経済状況の推移を暗算する。

腕まくりして力瘤を見せつける。
しかし痛い子を見るような目で華麗にスルーされてしまった。

背後に向かってガッツポーズを向けるアリアを、半眼の溜息で見返すエル。
教授が鞄をテーブルの上に乗せ、自身の鞄と格闘することしばし。
眉をそばめてぽつりとつぶやく。

教授の呟きが頭の隅っこに引っかかる。

教授眼鏡が怪しく光った。
どういう力の込め方をしたのか、頑丈そうな蝶番がポロリと取れ、根元から鍵が取れてしまった。
薄く光るように掌が輝いてるのは、おそらく肉体強化系のエンブリオの力だろうか。

そういいながら鞄を開ける教授。
その手が当然硬直し、動かなくなる。
隣から覗き込んでいた鳴丸が口をあんぐり開けて固まった。

教授の開けた鞄にはぎっしりと赤い花びら、ネクターが詰まっていた。