レイドリックを退けたカラバはボクに説明をすると小屋の中に入って行った。

ミストは小屋の外に馬を繋ぐ。この子は忘れられた村のときも一緒だった子だな。
厩舎で借りたのかと思ってたけどミストの愛馬だったのか。ボクは彼のたてがみを撫でてやった。

ボクは懐から一輪のネクターを取り出す。
たちまち花びらは輝きながら散り落ち、ボクとアルタクスの疑似エンブリオ契約は成された。


それからしばらくして、カーラも現れた。ミストが呼んだようだ。
確かに彼女抜きでこれ以上踏み込むのはミストとしても立場上まずいのだろう。

とりあえず二人をソファーに座らせ、ボクとカラバはティーの用意をする。
ミストが手伝おうとしてきたが半ば無理やりソファーに座らせた。

ミストとカーラの方を一瞥して、カラバはボクに耳打ちした。

そっちと言うのは、エリス粛清関連、そしてボクの離反に対してどういうことになったのかだろう。
ミスト、カーラにはエリス粛清に関しては秘密のままなのでこの場では話せなかった。

カラバは何とも不本意な顔だった。

彼はさらにボクに顔を近づけて囁くような小声で言う。

なるほど。アステマ・ファム等、八公爵の魔器は作られてからン千年とかン万年の代物と聞く。
言われてみりゃそうそう簡単に壊せると思う方が不自然だったかもしれない。

とりあえずティーの用意が出来たのでボクらも改めてソファーに座る。

カラバは困った顔をして口籠ってしまう。
なんだよ、そんなに言いにくいことなのか？

そんな様子に見かねたのか、カーラが珍しく口を出してきた。

グノシスの癖にネフィリムと罵られて謝るカラバはとても滑稽に見えた。
こいつは、色々と損な奴だよな。

そうだ、すっかり忘れていたがそんな事もあったな。
あの時はちょうどリヴァランが戻ってきてそれどころではなくなってしまったが、カーラはあの時何を言おうとしたんだ。

カラバは躊躇っていたがようやく話すことを決意したらしい。
彼はフーッと深呼吸をしたのち、ボクの目をまっすぐ見つめてこう言った。

しかしカラバは止めることなく続ける。

カーラが更に付け足す。

ガクっと膝が落ちる。
足元がガラガラと崩れていくような感覚に襲われる。

あと、半年・・・？



いや、短命は覚悟していたんだ。
極端なこと言ってしまえば、元々短かったのが更に短くなっただけにすぎない。


そんなことよりも・・・。


ボクはボクじゃなかった。
ヘリヤじゃなかったんだ。

本当のヘリヤはボクの身体の奥のどこかで眠り続けている。



ユベールのお父様お母様が愛してくれたのも。
剣の送り主や周りの人達が誕生を祝福してくれたのも。


ボクじゃない。

ボクじゃなかったんだ。



カラバは為す術もなくボクをただ見つめる。
カーラはそんな彼を一瞥し吐き捨てるように言った。

カーラは心配そうにボクを見ているミストの方を一瞥した。

ありがとう。だけど、ごめんね。ミスト、カーラ。

水神教停止術に必要不可欠な『龍の木』とその樹液は既にこの世に存在しないんだ。
リヴァランは他の方法を探すとは言っていたが・・・それもどうだか。



だけど、しょげてばかりでも仕方がない。とりあえずはリヴァランと話をしよう。
そもそもユベールを捨ててからまだ彼とはきちんと腹を割って話す機会を作れていなかった。

今度は本当に間違いなくアイツとは味方の立ち位置だ。また違った話も聴けるだろう。




ボクの出自はショックだが今は一度頭を切り替えなければしょうがない。

この際短命なのは仕方がない。だけどボクがこのまま死んだらマリアはどうなる。
多分次々に妖魔の刺客が放たれるであろう今の状況はボクが生きているうちに何とかしなければいけない。

そのためには、ボクにはまだ、せめて今少しの時間が必要なんだ・・・。

どうも、シオンはトガノのことを完全に信頼しているわけではないようだ。

屈託のない笑顔を浮かべて言う。
そして家族の話を持ち出されれば、うんうんと頷いてみせ。