「な、なんで……」
伸ばしかけた手を引っ込めて、アールは顔を伏せた。
震える手を隠すように、チセの下にあるシーツを握り込む。

「怒ったり、恐がったり……しないのか？」
もちろんそれを望んでいたわけではない。でも覚悟はしていた。
だからチセの言葉と表情に、後ろめたさを感るばかりだった。
「……俺ずっとチセに隠してて……嘘ついてて…」

小さな手を握れないまま。
弱々しい自分の様子に苛立たしさすら覚え始めていた。

上着を脱いで露わになっていたその腕には、チセを助けた時に負った傷がまだ僅かに痕になって残っていた。

「……リュートにも約束したのに…俺………」

「チセを頼む」
そう言って、見ず知らずの自分に大事な家族を託した、少女の凛々しくも切なげな顔を思い出す。

少女はソワソワしている。