「なあ、アール」
チセのところへと戻る前の道中。オルテはアールの肩から、耐えかねて声をかけた。
「しっかり歩いてくれないと、足場がぐらつくんだけど」
「あ？ああ、悪い」
返事を返すも、心ここにあらず、といった感じだ。上の空で弱々しい足取りで歩いている。この調子だと彼女のところへ着くのは夜になってしまう。
「しっかりしな！男だろ！」
「……オルテ」
とうとう足を止めて、アールはぽつりとこぼした。
「俺、このままチセのとこに戻っていいのかなあ」
ここまで弱ったアールを見たのは、オルテも初めてだった。とはいえ、同情するつもりも、慰めるつもりも、彼女には毛頭なかった。道しるべであり器であるレゥカルが迷っては、元も子もないのだから。
「どうしちゃったのさ。まさかあの豆つぶ鳥の言ってること、間に受けてるのかい？」
「だってあいつ俺の呪いのこと、知ってるみたいだった。やっぱりこの文様、よくないんだよ。オルテ、お前だって何かしら影響を受けてるかもしれないんだぞ」
「何言ってんだ。それを覚悟であんた村を出たんじゃないのかい。今更弱音吐いてたら、父様や母様、兄さんたちに顔向けできないだろうが」
「……でも、チセになにかあったら」
オルテは大袈裟にため息をついてみせる。この数日間の旅で、アールはやたらチセに心酔しているようだった。一人旅で不安だったから、異性だから、という理由で片付けるには、少し引っかかるくらいに。
オルテもチセには何かを感じていたが、それがなんなのかはよくわからなかった。しかし元をたどればその原因はおそらくあのシピリカという青い鳥にあるだろうと、オルテは考えていた。

「アール、大丈夫だ。なにかあればアタシが止める。アタシはあんたのレゥカルなんだ。そこはもう少し、自信を持ってくれたっていいんじゃないかい？」
「そうだな……頼りにしてるよ、オルテ」
「それに今チセのところに戻らなかったら、呪いのことからも遠ざかる。あの鳥、なにか知ってやがる」
それはおそらく、呪いのことだけではない。オルテは眼光を鋭くした。
「アタシ感じるんだよ。アイツはアタシと何か近しいものだ、ってね」
「それはエンブリオ、ってことじゃないのか」
「アタシもよくわかってないんだけどね。なんとなくだよ」
「……うん」
「わかったらシャキっとしな。チセに心配かけたくないならね」
アールの耳を軽く啄みながら、オルテは高く鳴いてみせた。アールの不安を晴らすように、道を示すように。

たった今聞いたばかりである。 発音も、ややあやしい。

大人。一人前。　落ち着きの無い自分には、少々遠く、遠いからこそ憧れるもの。
故郷について彼が語れば、その風景を想像、してみたりして。

って、差し出したまま。 受け取ってくれても、なくても、手はそのうち引っ込める。
よいしょ。と、買い物袋を抱え直して。

勢いに気圧されて。

瞳を伏せ、物憂げに小さく息を吐いた。

どこかソワソワした様子で視線を彷徨わせ、悟られないようそっと笑みをこぼした。

アールの言葉に頷くと、
ケチェはケチェの足元でちょろちょろと動いていた
おこじょのエンブリオをつまみあげ——……

（続きをケチェの絵日記にのせました。アール君とオルテちゃんお借りしました）

シピリカはそれだけ答えると、小さな翼を広げ宙へと舞う。
去り際に、小さな呟きをアールの頭上から落とした。

意味深にも聞こえるセリフを吐き、
少年の地団駄を楽しむように、ニタニタとした笑みで見下ろす。

少年の抗議もどこ吹く風。
からかうように肩をすくめて見せるのだった。

アールは一人で黙り込んだまま、静かに武器を構えた

少女はソワソワしている。

　　　△　　土　▲
　　（　㊤　皿　㊤）　　がしゃーん
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　／│　　塊　　│＼　　　　　　　　　がしゃーん
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