◆ Intermission　→side:A



「ねぇ、こんなのいらないんだけど、ちょっとー！」


とある洋館の一室で、天蓋付きのベッドに腰掛けた少女が、目の前に立つメイドに文句を言っていました。
文句を言っていたのは、薄いレース生地の黒いワンピース姿の、黒い髪の少女でした。
おでこのあたりには、大きな絆創膏を貼っています
そして、彼女の愚痴を黙って聞いているメイドは、白い眼帯を付けているのでした。

「ダメです、これからはベッドから立つときは、それを使ってください。」

少女の傍らには、真新しい杖が立てかけられています。

「こんなの無くても歩けるもん……。
　いらないもん……。」

「昨日、それで転んで頭をぶつけたのを忘れたのですか？
　お嬢様に何かあれば、私もご主人様に叱られてしまいます。」

「……そういえば、その目はどうしたの？」

「お嬢様と、一緒ですよ。」

「転んだの？」

「ええ。
　だから、お嬢様にはもうこれ以上、痛い思いはさせたくはないのです。」

「……わかった。」

「わかっていただけて、何よりです。」

そう言って、少女の頭を優しく撫でるのでした。
頭を撫でられた少女は、嬉しそうに、少しくすぐったそうに、目を細めます。

「この前はあんな風に言ったけど、私、あなたのことも大好きよ？」


　+ + +


黒髪の少女がテーブルに着いて、絵本を読みながら紅茶を啜っています。
椅子の傍らには、そこまで突いて歩いてきた杖が立てかけられています。
ベッドでは、眼帯のメイドがベッドの上のぬいぐるみを片付けたり、シーツを交換していたりしています。
そんな彼女のせわしない様子を、少女が時折確認するように見ていました。

「あっ……」

少女が小さく声を上げると同時に、床で何かが割れる音を立てます。
どうやらティーポットを落としたらしく、絨毯には割れた欠片と紅茶の染みが広がっていました。
その音に飛び上るように反応したメイドが慌てて駆け寄ります。

「大丈夫ですかっ！？
　……火傷など、していませんか？
　直ぐに片付けますから、お嬢様は触らないでください。」

そう言って、膝を突いて欠片を拾い始めます。
少女は邪魔にならないように椅子に足を上げ、その様子を見ているのでした。

「床を掃除する準備をしてきますので、お嬢様はベッドに戻っていてください。
　片付けが終わったら、すぐに新しいお茶も用意しますので。」

外したエプロンでポットの欠片を包むと、それを持ってメイドは足早に部屋から出ていきます。
部屋には少女が一人きり、ぽつんと残されました。

「……ごめんなさい。」

誰に言うでもなく小さく呟いた少女の手には、いつの間に抜き取ったのでしょうか。
一本の銀の鍵が、握られているのでした。

　手で頑張って表現しようとしているが、イマイチわかりにくい

　手首の緑の石を見せながら説明をしている

とりあえずモップの柄をうさぎおばけに向けます。

そしてつん、とつついてみます。

耳元の異形の姿に、目が釘付けになっています。さすがのクレーも、初めてみるもののようで、今度は本当に驚いているようでした。

身体が溶けて、人の姿が保てなくなったと思われるミオを見てどうしたものかと考えています。

あんまり対処法がわからないが、とりあえず地面に溶けてしまったその姿に水を与えてみたり。

あはは……。と、少し誤魔化すように乾いた笑いをもらすと、かぶりを振って改めて向き直ります。

そう言うと、メグは屈託のない笑顔で笑う。

いつも触れるメグの手とはまた違った、小さな女の子の柔らかい手のひらの感覚が、

この兎にしてみると、新鮮な感覚だと思うと同時に、心地よく思えているようです。

……何より、「お利口さん」だと褒められたことが心底うれしいようです。……恥ずかしくて言葉にはしませんが。