◆ Intermission　→side:A



「退屈だなー、はぁ、たいくつー……」


とある洋館の一室で、黒い髪の少女が独り言ちます。
手にしているのは、古い絵本。
どうやら今までに何度も読み直されたらしく、だいぶくたびれています。
彼女は顛末を知っているストーリーを最後まで読むことなく、ぱたりと絵本を閉じます。
退屈しのぎに部屋をぐるりと見渡してみたりもしますが、いつも通りの部屋があるばかり。
もう一度絵本を開こうかともしますが、テーブルの上に何か動くものを見つけます。

それは、彼女にとって見たこともない生き物でした。
指先ほどの大きさの、灰色の身体に二本の牙、八本もある長い脚。
近付いて物珍しげに見ていた彼女でしたが、何かを思い出したように踵を返します。
そして、たくさんの本が並んだ本棚の一番下の段から古い大きな本を取り出します。
それはとても古い本でしたが、先程の絵本とは対照的に、ほとんど開かれたことがないようです。

その本を持って戻ってきた彼女はテーブルにつくと、ページをめくりはじめます。
特に逃げるような素振りもせず、時折思い出したように動く生き物と、本のページを交互に見比べて、

「蜘蛛だこれー！」

そう、とても嬉しそうに言いました。

「蜘蛛だこれー！」

二回言いました。
そして、どうしようかと少し思案して、テーブルにあった籠のクッキーを一枚、
二つに割ると、片方を蜘蛛の前に置きます。

「よかったら、どうぞ。」

一方蜘蛛の方はというと、突如目の前に現れた自分の身体の倍以上もある大きな塊に驚いて、
警戒しつつもじりじりと後ずさりをしています。
しばらくすると、それが動かないただの物だと気付いたのか、さっきまでと同じような、
動いているのかいなのか、よくわからないような緩慢な動作に戻ります。
しかし、どうやら目の前に置かれたクッキーにもまるで興味はないようです。

「食べないのー？」

彼女は少し残念そうに、もう片方のクッキーをサクサクと食べながら、その様子を見ています。


　+ + +


日が傾き、斜陽が部屋に差し込み始める頃。
黒髪の少女が一人、テーブルについています。
視線の先には、半分のクッキーと、小さな蜘蛛。
もう、どれだけの間こうしていたのでしょうか。
彼女はあれから一言も喋らず、当然蜘蛛も何も応えません。

かちゃん、とドアの鍵の外れる音がして、それが合図だったかのように、彼女は嬉しそうに振り向きます。
ドアを開けて現れたのは、黒いスカートに白いエプロンをつけた女中でした。

「あの……、そんなにあからさまに落胆されると、私も傷付くのですが。」

現れた女中の姿を見るや否や、少女はしょんぼりとした表情になってしまうのでした。

「このところ、旦那様は執務が立て込んでおられるようですので。
　……ただ、今日は夜にはこちらにいらっしゃるとのことです。」

その言葉を聞いて、少女の顔がぱっとほころびます。
その様子に彼女は安心した様子でしたが、テーブルの上にいた蜘蛛に気付きます。
彼女は菓子受けのレース紙を取り出すと、それを蜘蛛へとかざしますが、

「ダメ。」

と、少女に制止されてしまうのでした。

「その子は友達なの。」

「ですが、人間と蜘蛛は、友達になることはできません。
　咬まれでもしたら、大変です。」

そう言って彼女は、一転して泣きそうな顔になった彼女を後目に、淡々と事を進めます。
蜘蛛の前に紙を置くと、後ろから指でへかへかとその上へと誘導し、
鍵の束を取り出して窓を開けると、紙に乗った蜘蛛を窓枠の外の壁へと飛び移らせるのでした。
窓に鍵をかけ直し、レース紙をくしゃりと丸めると、それを屑籠に捨てます。

「この部屋には、蜘蛛の食べるものはありませんから。
　蜘蛛はクッキーを食べません。」

「そうなの……？
　じゃあ、あの子はどんなものを食べるの？」

「お嬢様が知る必要もないことです。
　……私は、食事の支度に戻ります。
　旦那様もきっと、夕食までには戻られるでしょう。」

そう言って恭しくお辞儀をして部屋から出ていきました。




「……あの窓、開けられるんだね。」

そう一人呟いた少女が何を思っていたのか、誰にも知る由はありませんでした。

袖の下からにんじんを取り出してうさぎの口に差し出してみました

そういうと、イグニから感じる熱気が少し収まった気がします。
触れるように力を抑えたようだ。触ると気持ちいいくらいの温かさになっているはずだ。

二人はミオの一風変わった耳孔をマジマジと見つめています。

人造人間…という可能性もあるが、そこまでの考えには行き着かない。

そう言いながら、三人分のコップを用意して、一つミオにも差し出した。
コップに注がれたそのスケベ酒は、アルコール度数は高めだが、とても甘くて飲みやすくなっている。

本当に燃え上がっている。

女の子の手が肌を撫でるあいだ、アルはじっと大人しくしていました。

ひんやりした感触に少し吃驚したかもしれませんが、アルは特に気にした様子ではありませんでした。

アルがメグに突っ込みましたがメグはそれを聴かなかったことにしたようでした。