ホモボモしい弟君の来襲・帰還から１週間が経ったでしょうか。

ご主人様はアレですかね。

アガペーとかストルゲーが大きすぎるせいで、他人のエロスあっさり受け入れちゃうタイプなのですかね。

こりゃきっと昔からエロエロ…じゃなかった、色々と苦労なさってこられたのでは…



あ、申し遅れました。

私はミニドラゴン、名を、シャルラッハロートと申します。

先日、ご主人様ことガルヴァニナーナ様にエンブリオとして拾っていただきました。

あんなワケの分からない缶だの貝だのの集団と、

それをほぼ一人で薙ぎ倒す苛烈さを秘めながら、歯向かった自分に慈悲の手を差し伸べてくださった、見目麗しき蒼碧の君。

後ほどアインザーム殿に聞きますれば、ご主人様は、こことは異なる世界で『黎明の君』と呼ばれてる、とても高貴なお方なのだとか。

それを知らずとも、どちらを選ぶかなど、愚問でございましょう。

　…正直、あの状況で拒否などしたらどうなるか、堪ったものではございませんでしたし。

あの時共にいた同族の友も、ガルヴァニナーナ様のご主人という良き主に召抱えていただけたようで、恐悦至極に存じます。

　…どっからどー見てもただのニンゲンにしか見えないのに、黎明の君たる私のご主人様を従えてるなんて、
ものすごくツッコミたい気持ちでいっぱいですが。




…ともあれ、私は今、ご主人様と共にとある廃屋の掃除をしております。

この廃屋には、今、ご主人様がお世話になられている主殿が本来属されている世界とつながっている扉があるそうで。

いくら同行者様と言えど、独身女性のご自宅に入り浸るのはよくない、とのことで、

この小屋を溜まり場として使えるようにしようと、主殿とご主人様がお考えになったそうです。

ですがお掃除と言っても、大まかな掃除は私がご主人様と契約させていただく前からなさっていたようで、

最近はもっぱら、家具や雑貨などの調達・設置に奔走しておられます。

「そろそろ、暖炉の掃除もしておかなければなりませんね。」

そう言って、バスケットから昼に買っていらしたカーテンを取り出されたご主人様。

しかし、その笑顔には初めてお会いしたときのような力強さが感じられません。

この頃、ご主人様は体調が芳しくないご様子。

主殿をはじめ、同行者の皆様に心配をかけないよう、気丈に振舞っておられますが、

状態は日に日に悪化するばかり。

「大丈夫ですよ。　じきに治りますから。」

ここ２・３日の間、何度このお言葉を聞いたか、さすがの私でも分からなくなってしまいました。

お食事も休息も、皆様と同じく、キチンととっていらっしゃるはずなのに…

「う、ぁ…っ？」

不意に、弱弱しい声にが聞こえ、慌てて振り返れば、こめかみを押さえ膝をつくご主人様。

あぁ、なんということでしょう、やはり無理がたたったのでしょうか。

ついにはそのままうずくまり、壁に身を預けられたご主人様の顔には、嫌な汗が浮かんで…

「は…っ、ぐ、ぅぅ…っ。」

胸を押さえられ、苦しそうな呻き声。

あぁ、あぁ、私にヒトに化ける力があれば、今すぐ支えて差し上げられるのに。

今の私ができることと言えば人を呼ぶくらいですが、ご主人様の命に背くわけにも行かず。

「大、丈夫…。　少し、目眩が…」

目眩がしただけで立っていられなくなるようなことになるわけ無いでしょう！

あぁ、気付いたら髪が解けて…はて、何故うずくまった程度で髪が解けてしまうのでしょう？

それに、心なしか、ご主人様自体が小さく感じるような…？

もしかして、天に私の願いが届いて、私が大きくなったとか？

いやいやいや、そんなまさか。

なんだか嫌な予感がしたので、ご主人様の正面に回ると…お召し物の色が、違う？

ニンゲンたちが燕尾服と呼んでいる、ぴったりとした黒い服をお召しになっていたはずなのに、

蒼を基調とされた、まるでローブやドレスのような…？

「そんなに心配しなくても、もうなんとも…？」

そこでようやくご主人様も、ご自身の異変に気付かれたようです。

はっとして喉元に手を当てられ、呆然となさって…

む、これはもしかしなくとも、まだ外見の変化には気付いていらっしゃらないのでは。

姿見はどちらに…ってさすがにまだ無いですよね。

あ、ご主人様、窓見てください窓！

夜なので色は分かりにくいですけど、それでも十分分かりますよ！

本当に眩暈は治まったようで、しっかりと立ち上がられたご主人様。

「な、えぇっ…！？」

しかし、窓を見た途端、声を上げ、呆然とされてしまいました。

それもそのはず。

姿見の代わりにした窓に映ったそのお姿は、

豊かな蒼髪は変わらずも、

透き通った大きな瞳、

暗がりでも分かる白い肌、

瑞々しい桃色の唇、

その身を包む多量の布の上からでも分かる、扇情的な曲線。

黎明の君ではなく、姫君と呼ぶべき、美しい女性そのものでありました。

「どう、して…。」

震える鈴の音のようなお声で、窓に写ったご自身と手を重ね合わされたその瞬間、

奥の部屋から物音が。

はっと振り返り、息を呑んだのはご主人様とほぼ同時でした。

奥の部屋のクローゼットのその向こう、地球と呼ばれる異世界から、主殿がいらしたのです。

体調不良どころか、ご主人様のこのようなお姿を、他でもない主殿に見られてしまうわけには参りません。

今から逃げるにも、ご主人様の今のお召し物では目立ってしまいますし、音でバレてしまうでしょう。

手荒なことになりますが、いっそ主殿には気絶していただきましょうか。

あの扉が開いた瞬間、私とご主人様なら、主殿の息の根くらい簡単に…

「…シャル！」

すいません出過ぎたことを…って、へっ！？

え？　え？　何で私抱えられて？

ま、待ってくださいご主人様！

そのお姿で窓から飛び出されるなんて、はしたのうござ…ひゃあああああっ！？






かくして、私はご主人に抱えられ、窓から廃屋の外に脱出したのです。

窓の向こうは、先ほどまで見えていた光景とはまったく違う、

何かのお店のような場所だったのですが、それはまた別のお話。

ご主人様の、私を抱えられた腕とは逆の手に握られていた、銀色の何かだけが、夜闇に眩しく感じました。

>卍人さん

*あらじゃあフリーと間違えられてたって事もあるのね。後でしっかりマーキングしとこうと思う奥様でした*

＞ご主人

　　　同行者達の度重なる無茶な行動っぷりに、若干キレかけているようです。
　　　ティシアさんとご主人のやり取りにツッコもうかと悩んでいたようですが、
　　　今ので吹っ飛んでしまったようです。

＞ルーチェさん

そう、肩をすくめたが、ルーチェの言葉にくすくすと笑い、