エルフィリエ王国歴５００■年
王国南方の農村

「エル姉ちゃん、また明日なー」
「気をつけて帰ってねー。あ、おば様にお大事にって言っておいてね」

村一番の大農家、ロートレック家の長女であるエリュテイアは村の子供達の面倒を見る
気立ての良い娘であった。運動はそんなに出来ないが、頭がよく、学校の宿題を見たり、
お菓子作りや人形作りをしたりと、村の子供達と一緒に夕飯までの時間を過ごす。

「ふー…今日も楽しかったなー✿」

やがて全員が帰路につき、散らかし放題の部屋を一人片しながら、今日あったことを思い出す。
今日は出来たばかりのドール用にすこし手の込んだ洋服を仕立てたのだが、村の仕立屋の家の
男の子が目を輝かせて見ていたので、一緒になって作ってみた。これがまたフリフリのヒラヒラで
かなりの出来になってしまったので女子の中で取り合いになってしまい、明日から何着も作る
羽目になってしまった。

「ふふ…でもあの子、さすが仕立屋の家の子ね」

最初こそ辿々しい手つきであったが、すぐに腕を上げていく様は見ていて感動を覚える物だった。
ふふ、っと思い出し笑いをしながら片付いた部屋をもう一度見渡し、自らも帰路についた。


家につくと、なにやら村の大人たちが集まっていた。
エルは気になったが、大人達の顔が険しく真剣な表情であったため、挨拶だけして母の元へ。
予定になかった集まりに、母も忙しそうにしていたので「ただいまー」と声をかけながらエプロンを
手に取る。母も「おかえり」と一瞬だけこちらを向いて言ってから、半歩横に動きエルを迎え入れる。

「流行病？」

母が言うには、どこかの村が流行病によって危機に陥っているらしい。
働き手も、主婦も子供も、村の医者でさえ病に冒されていて、とても危険な状態にあるようだ。

「それでね、働き手や医者を派遣する要請があったそうなのよ。」

そう、母がとても心配そうに言った。村一つ壊滅状態に追い込むほどの病だ。
派遣した村人が病に冒される可能性が高く、それはいずれ帰るこの村に持ち込まれる可能性も
高い。普通であれば断るべきなのだが、この地域の村は横の繋がりを大切にしている。
いずれ再開する交流に遺恨を残さぬように、派遣するべきという意見が圧倒的に多い現状だ。

「じゃあ、誰が行くかっていう話なのかな？」
「そうね…行かないといけないけど、誰も行きたくはない…というのが正直な話」

病に冒された村を助けたい、しかし自分の村を危険に晒す訳にはいかない。
「さ、ひとまずご飯にしましょ」と半ば強引に話を打ち切り、山盛りのご飯を載せたカートを引き
ながら、母とともにキッチンを後にした。


結局、この日村の代表は決まることがなく、またこの村から派遣されることもなくなった。
圧倒的な早さで広まった流行病は、もうすでに村に入り込んでいたのだった。

3人の顔を見ては丁寧にお辞儀し。ついでにそれぞれの胸へ視線を走らせたが何も言わなかった。

そう言ってカバンから小さな紙包みをとりだした。
ふわり、と甘いクッキーの匂いが漂う。

もそもそ。

当初の意図はどこへやら
この真っ昼間だというのに木の影が濃くなるぐらいの花火大会が開催される

本人と、多分パートナーの事を思ってか、割とストレートに言ってのけた。

あえてみなまで言わない事で恐怖を煽って行くスタイル。

冗談めかして、そう尋ねる。

餅と七輪を取り出した。醤油をつけて目の前で焼いてくれるらしい。あちこちで焼いてきたのか、すでに(お腹に)凶悪な匂いを感じられるだろう。

アリアさんが置いていった茶セットに興味津々なスィーは
ぺこりと頭を下げて礼を言うと、早速茶具を使って茶を淹れる様だ。

この世界の文字では無いのだろう。
茶袋に書かれた文字を読む事ができなかったスィーは適当に茶袋を選んで茶を淹れていく。
……袋には「千振茶」と書かれている……。

──ごくり。リューンがスィーから受け取ったお茶を勢い良く口に含む。

お茶を口に含めた瞬間。リューンは壮大に勢い良くお茶を噴出し咳き込む。
行き成りの噴出しに流石のスィーもこれには驚いたご様子。

あまりの苦さにその場でゴロゴロ転がって悶えるリューン。
…如何やらピンポイントに当たりを引いてしまったようだ。流石のスィーもこれには苦笑いを浮かべている。
そんな様子を端から見ていた毛玉兎はというと…

エルさんの前でもふんもふんと土下座(?)をしていた。

アルが興味深々といった様子で、メグと一緒にホログラムを覗き込んだ。

映し出された風景もそうだが、これはやはり男の子の習性なのか、機械的な部分にも興味があるらしい。

街の景色を横目に見つつも、ウィンドウで跳ね回る視覚効果に目を奪われている。

よく見てみると、メグたちも見てきた地球の、西ヨーロッパの風景とも似ているようだ。

メグは心の中で、緑の丘陵と古城と丘の山肌に造られた石造りの街並みをなんとなく思い浮かべてみる。

そして、改めてフォトグラフに向き直る。

メグが感心したように呟いた。

メグはおそるおそる、まずは「5さいくらい」というボタンに白磁のような指を触れてみた。