水辺を進む私達、
そんな私達の前に、
エモさんが敵を引き連れてくる。
——引きつれてくるのはいいのだが……
数は多く、
以前倒した敵の姿があるとはいえ、
以前とは違う風格の敵もいた。
——以前戦ったくらいの相手であれば、
そう警戒する必要はなかったかもしれない。
けれども——
今私達と相対する敵は、
以前とは比べ物にならない嫌な予感をひしひしと漂わせていた。
「——」
組み合わせも非常に危険。
撤退を考えたが……
ちらりとエモさんの方を見やると目を輝かせていて、
引く様子は全くない。
一つ息を吐いてアルネスさんへと言葉を投げかける事にした。
「——どうみるかしら？」
「ん？んー……
　よく分かんないけど大丈夫じゃないかな？
　悩みもすっかり吹っ切れたし、
　もう、何も怖くないから大丈夫大丈夫。」
「——アルネスさんって無自覚に死亡フラグ立てまくるわよね。」
「え、そんなつもりはないけど、
　また立ててた？」
「ええ、思いっきり。」
やれやれと私は肩をすくめ、
エモさんの先制の魔法にあわせて、
霊を纏わりつかせ、
相手の勢いを削いだ。
でだしは順調。
だが、
やはり、敵は甘くは無かった。
フラミンゴが鋭い突きをアルネスさんへと突き出す。
その一撃を見て、
霊を収縮させアルネスさんへの壁とするも、
容易く打ち払われてしまう。
「ッ——！」
思った以上の鋭さに、
霊達の数が勢いよく減っていく。
更に、カッパが水をまき散らし、
動きが鈍った所で海象が仕留める。
恐ろしく息のあった攻撃に、
あっという間にこちら側が劣勢となる。
周囲を見渡すと、
エモさんは相手に集中し魔法を使い、
ペルチェさんは回復で手一杯。
アルネスさんは精一杯斧を振るい、
一見、冷静にしっかりとやる事をやっているように見える、が。
その実……冷静さを失い、
らしくない行動をとっている。
正直いって不味い。
相手がもう少し均衡していたなら、
話は変わっていただろうが、
相手の方が総合力が上。
——だとすれば——
守りにも霊を使っていた私は、
私の周囲にいた霊が駆逐されるや否や、
戦線を離脱する。
自分の身体を盾にする事も考えないでもなかったが、
盾にするには私は脆弱過ぎ、
また、
いざという時に私の意識が無かったり、
動けない状況になったとしたら——
その方が不味い。
アルネスさんだけは、
どうしても無茶が効かない体なのだから。
「——全く……」
面倒といえば面倒ではあるが、
悪くはない。
ため息をつきながら、
霊を集めていく。
闘う為ではなく、
安全な場所へと避難させる力を得る為に。
「間に合えばいいのだけど。」
そうして戦いの様子を見守っていると、
まず最初に倒れたのはエモさんだった、が……
「……相も変わらず抜け目がないというか……」
転がるように戦いの場から離れ、
相手の食糧をかすめ取っている。
ほっておいても後で回収すれば十分だと思い、
放置する事にして、粘る二人の様子をみる。
健闘はしている。
だが……
形勢を逆転するほどではなく——
「あ、やばこれ以上たってらんな……」
アルネスさんも倒れ、
ペルチェさんが残っているとはいえ、
戦いの結末は既についている。
そして——
全力を使い果たし、
傷だらけになって糸の切れた人形のように崩れ落ちるアルネスさん。
やはりというか、
そのままにしておいては彼女が死んでしまいかねない。
私は彼女に駆け寄ると、
霊の力を借りて彼女を背負い、
丁度、ペルチェさんも倒れようとする所だったので、
そのままペルチェさんを引っ掴んで、
エモさんが逃げていったであろう方向へと疾走する。
——
今後も私は余力を残しておかないと、
いざという時大変ね……

敵の気配が無くなった所で、
二人をおろし、
応急手当をする。
といっても、
大した事をした訳ではないし、
アルネスさんに関しては、
ペルチェさんの治癒が必要な状態に変わりない。
——なんとか魂を押しとどめて、
延命していたる形になる。
とはいっても、
ペルチェさんが動けるようになるまではどうにもならないし、
とりあえずペルチェさんを干す事にした。
エモさんに関しては少し待っているうちに合流したが、
元気になって食べ損ねたとかいっていたので、
とりあえず、
用意してあった保存食でなんとか我慢してもらう事にしたのは、
言うまでもない。
そうこうしてるうちに……
「きづいたらほされてるウサ……」
ペルチェさんが気づいたので、
アルネスさんの治療をお願いする事にした。
「わかったウサ。
　そのかわりあとでペルチェのことはよろしくおねがいするウサ〜」
との事で、
問題なく戦闘後の処理は終わる。
思ったよりも問題が無く、
私は拍子抜けしてしまったが、
次は上手くいくかどうか分からない。
治療を終えたペルチェさんをきっちり裁縫し、
綺麗にした所で、
三人を集め今後の話をする。
——このままでは頻繁に同じような結果が起きると判断した為に。
「——砂地に行きましょう。
　美味しいものならそちらにもあるでしょうし、
　そろそろ装備とかも整えた方がいいと思うわ。
　無理は禁物だと思うのだけど、どうかしら？」
そんな私の提案に三人は承諾する。
エモさんが反対するかとも思ったのだが、
エモさんも他の美味しいものと聞いて、
上手く誤魔化されたようで何事もなく済んだ事に、
内心胸を撫で下ろした。
——全く柄ではないと思うが、
上手くいってる時は三人に任せきりで良いものの、
上手くいかない時は私がしっかり考えるべきだと再認識させられた。
甘いといえばそこまでなのかもしれない。
放り出せばいいとも思う。
——ただ楽しむだけであるなら、
煩わしいもの全てを捨て去ってしまえば楽になれる。
それは自分が一番良く分かっている。
だが……
違うという事も私はよく知っている。
今の楽しさを失わず、
新しい楽しさを得る最善の方法は真逆だという事を。
こうした煩わしさも全て楽しむ。
そうした先に、
“この４人で旅をする事”こそが——
真に楽しむ方法である事を知っている。
この４人が集まった事は偶然で、
運命などではないが——
集まってこうしてここまで上手くやって来た事に意味はある。
そう。
だからこそ——
その意味を見つけ出すまでは、
私は彼女等と一緒に居なければならない。
この確信は……
決して外れない。
そう心が告げているのだから。

そんな事を考えているうちに一日が終わる。
しっかりペルチェさんが治ったのか、
抱き心地を確かめていると……
「そういえば、
　みつきさんはぬいぐるみのあつかいになれてるきがするウサ。
　いえにいっぱいもっているウサ？」
そんな事を聞いてきた。
そういえばぬいぐるみは一杯もってた記憶があるが、
どれもこれも皆人にあげたりしてた気がする。
可愛いものは好きだし、
愛でたりはするけれど、
ぬいぐるみ等を持ち続けるのは柄ではないし、
一杯持っていたというのなら、
確かに当てはまるかもしれないが、
それはもっている事には当てはまらない。
「——家にぬいぐるみはないわよ。
　造る事もあるけど、
　大体私は決まった拠点は持たないし、
　まぁ、可愛いものは好きだけど、
　柄じゃないのよね。
　まぁ、それでも嫌いではないし、
　寧ろ好きだもの。
　——嫌でも慣れると思わないかしら？」
「なるほどウサ。
　じゃあ、
　はじめてつくったぬいぐるみは何ウサ〜？」
「——そうねぇ。
　少し長い話になるけどいいかしら？」
「もちろんウサ。」
「それじゃあ——」
少しお話しましょうか——
と、昔を思い返して私は口を開いた。
あれは、まだ私が１４の頃——

「魅月ねーさん、
　何作ってんの？」
弟の真は、
縫い物をしている私に向かってそう聞いた。
縫い物をしているのは珍しい事ではない。
——手慰みみたいなものであるが、
色んな物を縫っているうちに上達はしていた。
つまりは当たり前の光景。
弟が今更尋ねる程の事ではないと思うが、
今、私は作っているものに苦戦していた。
初めての試みであるのも確かだが、
ここまで苦戦するとは正直、
私にとっても予想外だった。
「——クリスマスプレゼント？」
正直間に合うかどうかすら怪しいと考えていた私は、
疑問形でそれに答える。
——何を作っていたのか答えないのは、
クリスマスプレゼントがばれては意味が無いから。
だからそれ以上は何も答えない。
「——なんで疑問形？
　いや、まぁ良いけどさ……
　クリスマスプレゼントなら俺にいえないのも分かるし。
　珍しく魅月ねーさんが苦戦してるし、
　この調子だと間に合わなさそうに見えたんだけど……」
「……だから疑問形よ。
　——間に合わなかったら別の物にするわ。
　安心なさい。
　——気にいるかは分からないけれど。」
「心配性だなぁ。
　ま、どんなものでも楽しみさ。
　プレゼントは気持ちだって魅月ねーさんいってたじゃないか。」
「——それもそうね。」
笑いながらどんなプレゼントでも楽しみなんだって、
本当だから信じてくれよとばかりに、
身振り手振りで私に伝えてくれようとする弟へと微笑む。
そんな弟をみていると、
やはり弟には喜んでもらいたいと感じられて、
気合を入れ直し、
手元へと視線を落とす。
「頑張って間に合わせるようにするわ。」
「ああ、楽しみにしているよ。」
手を振って私の所から立ち去る弟を後目に、
再び作業に集中する。
——何度も何度も失敗しながら、
少しずつ手ごたえを確かめるように作業を進めていく。
遅々として進まない作業ではあったが、
何度も繰り返すうちに段々とコツを掴んで来る。
誰かに教えを乞えば速いのは分かっている。
だが、
それでも自分の手で作ろうとするのは——
「意地……なのかしらね。
　——頼るより頼られたいという……」
そんな自分に苦笑しながら手を進める。
——きっと間に合う。
そう自分に言い聞かせて私は手を動かし続けた。

——クリスマス当日——
クリスマスといっても、
盛大に何かを祝う訳ではないが、
クリスマスプレゼントくらいは用意する。
私が用意した弟へのプレゼントは、
ずっと作り続け、
完成した代物。
綺麗に包装したそれを見て、
満足気に私は微笑んだ。
完璧——とまではいかないが、
十分に満足できるものが出来たとは思っている。
「——真。」
真の部屋へと向かい、
真の名前を呼ぶ。
部屋に居たらしく、
直に襖を開いて私を迎え入れてくれた。
「魅月ねーさん？」
「……クリスマスプレゼント。
　用意したから受け取ってくれる？
　……ま、１１歳なんだからもう要らないかもしれないけどね。
　男の子だし。」
「——あー……
　とりあえず開けてみても？」
「——ええ。勿論。」
プレゼントを渡すと、
丁寧に包装を解いていく真を微笑みながら見守る私。
包装が解かれて現れたのは、
茶色い小熊のぬいぐるみ。
お店で売られているものと比べると、
それは拙いかもしれないが、
十分丁寧に可愛らしく作られたぬいぐるみ。
くりんとした目が包装を解いた真を見つめる。
それを見た真もじっとぬいぐるみを見つめ、
直に笑ってぬいぐるみを抱き上げ感触を確かめ始めた。
「——確かに、男の子にあげるプレゼントじゃないな。
　魅月ねーさん。
　むしろ俺が魅月ねーさんにあげるような代物だろ？」
存分に堪能した所でそういう真の顔は、
口ではそういっていても喜んでいるようだったので、
微笑んで私は切り返す。
「そうね。
　——貴方に何をあげようか考えて、
　貴方の事を考えていたらふと思い浮かんだのよ。
　……誰か好きな子にでもプレゼントしてもいいのよ？」
「まさか。
　魅月ねーさんが俺に作ってくれたものを誰かになんてあげるもんか。
　……ありがと。
　大切にするよ。」
「……ええ。
　次は男の子らしいものを用意するわね。」
「楽しみにしてるよ。」
そういって笑いあう私達。
今ではもう遠い過去のそれは、
未だに色あせず思い出せる。
あの時のぬいぐるみも、
弟も最早この世のどこにも存在しないけれど、
もし、もしも——
私の世界が壊れる事がなかったならば、
ずっと大切にしてくれたのだろうか？

「——ま、それが最初に作ったぬいぐるみかしらね。
　大切にしてくれると私は思っているのだけど、
　それは傲慢かしら？」
「ペルチェはむずかしいことはわからないウサ。」
「……そうね。」
「——でも……」
「……？」
「たいせつにしてくれたとペルチェはおもうウサ。
　おもいのこもったぬいぐるみと、
　そのおもいをうけとってくれたひとはきっとしあわせになるウサ。
　しあわせにならなきゃいけないウサ。
　だから……まちがってないとおもうウサ。」
ペルチェさんの言葉に思わず微笑んでペルチェさんの頭を撫でた。
「……ええ、そうね……ありがとう。」

　　　　　　　　　　幻妖な光を放つ木の葉の裏側から、覗きこんでるあなたはだぁれ？

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　　（　㊤　皿　㊤）　　がしゃーん
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　／│　　塊　　│＼　　　　　　　　　がしゃーん
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