○月　□×日

　——久しぶりに、昔の夢をみました。

　昔と言っても、私の体感ではそれほど昔という訳でもないですけど。

　私が未来を信じて疑っていなかった頃。
　時間が止まってしまうなんて思っても居なかった頃。
　ただ、お母さんを好きでいて、目標にして居られた頃。
　私は、いつかお母さんのように立派な女王になるんだと、信じていた。

　けれど、時間が止まり、以降の記憶を失ってしまうようになって。
　描いていた夢は、少し形を変えてしまったのだと思う。
　それまでずっとお母さんのようにと思っていたのに、何度もリセットを繰り返す内、私は『自分にしかなれない形』を探すようになっていたから。
　それは本来、前向きな、積極的な考え方で、成長や進歩と言っていいものなのだと思う。
　でも、私は知っている。
　それが言葉通りの物ではないと言うことを、思い、知っている。

　私はリセットを繰り返す内に、気づいていた。
　このまま満足に記憶を積み重ねることも出来ず、いつ消えてしまうかもわからないような私が、お母さんのような女王になる事はけして叶わない事なのだと。
　だから、変わってしまった私の夢の形は、本当はこうなる。
　『こんな私にもなれる女王の形』を探そう、と。

　自分にも出来る事をやろう。
　そう言えば聞こえはいいけれど、私の実際は、妥協してあきらめただけの、後ろ向きで消極的な考え方でしかない。

　そう、まだ記憶に新しく『感じてしまう』昔を思い出すたびに、自己嫌悪でいっぱいになった。
　本当にこのままでいいのか。
　あの時の選択は、間違っていなかったのか。
　そんな自問に、未だ答えは出ていない。

　そしてもう一つ、続けて違う夢を見た。
　それはまだ新しい、けど忘れてしまったはずの記憶の欠片。
　私が『彼』と旅をしていた時。
　記憶を失うことを恐れる私に、彼はこう言った。

『記憶を失うと、お前はティアじゃ無くなるのか？』

　私は「そんなことわからない」と答えた。
　けれど、きっと自分じゃ無くなってしまうだろうと思っていた。
　実際に、私じゃない『私』を知っていたから。

　……でも、本当に？

　最近は時々、そんな風に考えることがある。
　あの『私』と私は、本当に違うの？
　私もああやって、奔放に生きたいと思った事はなかった？
　私が『私』を嫌うのは、妬ましいから……羨ましいからじゃなかった？

　……そんなはずはない。
　考えるそばから、否定を重ねた。
　そんなはずがない、そうあっていいはずがない。
　私が『私』のようになれば、彼女が本当に消えてしまう。
　私の初めての、大切な友達がいなくなってしまう。
　彼女の力で生きている私が、そんなことをしていいはずがない。
　そんなこと、許されるはずがない。
　私は彼女のためにも、忘れる訳にはいかない。
　たとえ、このまま消えてしまうとしても。

　……あぁ、お兄ちゃんに会いたいなぁ。



　——第二回闘技大会が終わった。

　私たちは全部で五勝。
　一回目には参加できなかったけど、初参加にしては健闘出来た方だと思う。
　三回目には、もっと準備を整えて、一つでも多く勝てるようにがんばりたいな。

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クノンの話を聞き終えて、しばらく考え込むような背中を見せる。
その胸中がどうあったか、伝わるかどうかは別にして。
紫の髪をした小さな姿はそのまま飛び立たず、ゆっくり振り向いた。

聞いてみてから、ちょっと口元に手をやって。

いいのかな、と視線を向けながら、もう一つの話題を続けます。

手をつい、と振ると、極細の蜘蛛の糸がいつの間にか風に流されて近くの木に絡まり。
ピンと糸を張ってみてから、感触を確かめるように指先を動かしてみて。

手の平にのっているちっちゃい蜘蛛が糸を出している模様なのでした。

　クロエはティアの頭の感触が気に入ったのか、にこにこしながら撫で続ける

　ティアに飛びかかられたクロエは、少しふらつきながらも受け止める