フォルカー・アルフレヒトの愛娘は割と小食だ。
　故にフォルカーは彼女が少しでも多く食べるものを給仕すべく、日々多大な努力を払っている。
　——そんな彼が珍しく琺瑯の器を覗き込んでいる姿を、ファルクレイは真後ろからこれもまた覗き込んでいた。
「クッキー」
「クッキー？」
「クッキーの、枚数がな」
「枚数が？」
「平たく言うと、多い」
　狼はまなこを瞬かせた。
　そんなファルクレイの顔を見上げ、フォルカーは肩を竦める。
「おやつ一回辺り何枚って決めてるんだよ、俺は。後一回分は残ってると思ったら、これだ」
　そうして改めて琺瑯の器——蓋付きの容器だ——を傾け、彼はファルクレイにも中身が見えるようにしてくれた。中身は彼自身が言った通り、クッキーが何枚か。
　ここ数日間食の時間によく出て来たクッキーだが、思い返せば確かに食べる枚数は毎回決まっていたように思う。そんなクッキーが二回分より、一枚少ない。
「配分を間違えましたか」
　とファルクレイは緩く尾を揺らした。
「ううん、ちび共の御褒美にもやってたしなぁ。後はちび共の数が変わったのも問題だ」
　フォルカーは琺瑯の容器の蓋をはめ直し、軽く顎を撫でた。何かを悩んでいる様子でもあった。
　その末に彼はひとつ息を吐き、
「今日はクッキー食べ放題だな。なんとびっくり、いつもの二倍だ」
　と笑った。
　ファルクレイは僅かに眉を顰める。
「本当に、それで宜しい？」
　いつもの倍量もクッキーを食べたら、クローシェの腹には食事の方が入らなくなってしまうのではなかろうか。
　それでは今までのフォルカーの苦労が台無しになってしまうような気がして、どうしても手放しに歓迎する気にはなれなかったのだ。
　けれどもフォルカーと来たらにこにこと笑って、別にそれで構わない、と言うのだ。
「俺は父親だからな」
　たまには、甘やかしてやっても構わないのだ——と。
　笑う顔を見やって、ファルクレイは重ねた前足の上に顎を乗せた。

（チキレに負けた人の顔）