息も絶え絶えに片膝をついている「つもり」のクリスに、
目の前の、先ほどまで天使の姿をしていた何かが声をかける。

異形。
これまでメルンテーゼで見てきた様々な生物たちとは、あきらかに一線を画す存在。
ジーンだけではない。地下牢内のありとあらゆるモノが数式の羅列として映る。
同行していたサニーやBKBはすぐに次なる戦闘に巻き込まれていた。

ぐにゃりと曲がった異形はどこかしら誇らしさをアピールしているように思えた。
自分自身ではなく、クリスを誇って。

クリスの頭に「触れる」。
それが仮初の感覚であることを、クリスはもう理解できていた。

はっと、口を閉じる。
ジーンの話はあまりに荒唐無稽なのに、
これまでの一揆で連れ添ってきたエンブリオへの自然な対応をしてしまっていた。
なぜかクリスの中にストンと綺麗に納まってしまったのと、
ジーンの言葉から一切の敵意が感じられなかったから、なのかもしれない。

天使の台詞の節々から滲み出ていたのは、哀れみだった。

地下牢の床にへたり込んだクリスに目線を合わせるために、
ジーンは地面に降り立って座り、両足を抱え込んだ。

地下牢の奥から、よく響く声が届く。

リサヤを着用し、十字架の描かれたクロブークを被った
司教然とした男のシルエットが近づいてくる。

ラズロがニッコリと微笑むと……
死したはずの存在、スケルトンやグールたちが
地下牢の硬い床を突き破りラズロの周囲を取り囲んでいく。

クリスは、立ち上がっていた。
体が自然に動くという感覚をはじめて味わったように思えた。

もっとも……クリスには物質的な体は存在しない。
クリスがこれまで自分の体だと思っていたのは、
感覚情報の操作により生み出された錯覚、幻覚、イメージの類。
そんなことはもう分かっていても、クリスはたしかに自分の体の存在を意識したのだ。

まるで。
親から脈々と受け継がれてきた哲学であるかのように主張を口にする。

怪しく微笑んだラズロは、僕たちに指示を与えた。
クリスたちの喉笛を食い破るようにと。

分かりやすくおどけてみせたジーンの態度から、
今は教える気は無いという意志がこの上なくはっきりと伝わった。

しかし、クリスの身を案じる気持ちははっきりと伝わっていく。
それだけが今のクリスにとっての真実だった。

笑みが消え、瞳が深く沈む。
手の内の魔刃が共振し、ひとつ上の段階へと移行する。

君のやり方を見せたところ、アムルイは言葉を失っていた。
もっと違う形を想像していたのだろう。
少なくとも——こんな不気味なモノではなかった筈だ。
しかしアムルイは、

……ちょっとどうかと思う発言は、聞かなかったことにするのが優しさか。
彼女の目には、驚きと好奇心しかない。
こんなものを厭うことなく受け入れ、もっと知りたいと望んでいる。

——その言葉さえなければ、また見せてもよかったかもしれない。
でも、もう無理だ。
こんなことができるようになりたいなんて、どうして思えるんだろう。
こんなものしか見えなくなるのに、そうなりたいと思えるんだろうか。

感情が微かにざらつく。
心の中に指を入れられたような不快感がある。
悪意がないのは分かっている。
だからといって、全てが許せるわけではないのだ。

これ以上は話す気になれず、君はこの場を去ろうとした。
けれどその背中に、無遠慮な声が飛んで来る。

もう、分からないのに。
それでも作れと、どうして言えるのか————。

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【自由】 ゆっくりえねりwith異国の紋様（ 装飾 / 87 / 活力1 / 治癒1 / - ）