…小鳥の囀りが聞こえる中で、僕は目を覚ました。

目を覚ました、とは言うけど意識が覚醒しただけで、
実際は残ったままの眠気が瞼を閉じたままにしている。

変だ。いつも寝食を行っている場所の外周には空からの侵入者を防ぐ為の
高圧電流が流れていて、鳥はおろか羽虫の一匹も入らない筈だ。

だというのに、それの囀りが窓越しですらないかのように鮮明に耳に届く。

寝転がったままだが、寝具の感触にも違和感を感じていた。
いつも使っているベッドの心地が違う…そもそも。これはいつものベッドなのか？

…僕は、意を決して瞼を開いてみることにした。

…赤毛の男の人が、僕の顔を覗き込んでいた。
誰だったっけ、この人…つい最近見たような気がするんだけど…

赤毛の人は、頬に手を当てて僕をずっと眺め回している。何を見てるんだろう？

暫くして、赤毛の人が誰かを呼んだ。
ムッコ…と聞いて、僕の脳裏には箱の集合体のようなロボットの姿が浮かんだ。

…そんな筈は無い。件のロボットは元居た世界から
ファンタジーじみた御伽噺みたいな世界に飛ばされてしまっていた筈だ。

…でも、程無くして聞こえてきた機械音声が、その否定を更に上から塗り潰すように否定した。

ガシャガシャと駆動音を鳴らしながら、それは近付いてくる。
機械音声には聞き覚えがあった。つい数日前まで、雑談を交わしていた相手だ。
そう、さっきも言ったみたいに箱の集合体みたいなガラクタロボが…

僕の前に姿を現したのは、イメージした像とはカスりもしないロボットだった。











…僕はどうやら、彼…ムッコロボが来てしまった世界に同じく辿り着いてしまったらしい。

赤毛の男の人…生体演算装置【涅槃(ニルヴァーナ)】に組み込まれる前に
僕を攫いに来たガーフィールドさんは、なにやら良く分からない釈明をしている。
それを聞いて少しずつ、意識を失う前の記憶が戻っていった。

基地から脱出しようと試みたものの、警備が予想以上に厳重で…まあそれは別にいいんだけど。
それよりも、機密保持の為に武装した自動人形(オートマトン)を嗾けられた時は死ぬかと思った。
ガーフィールドさんがウネウネ動くマフラー(『ファーゼライ』と言うらしい)で
機銃掃射を弾き落としながら僕を抱えて逃げたけど、結局囲まれちゃって。

何処でこさえたかは口を真一文字に結んで話してくれなかったものの、その次元跳躍装置を
咄嗟の判断で使用して脱出した結果が…ご覧の有様というわけだ。
余談だけど、メルンテーゼに到着した時には空中に放り出されたらしくて、
重力制御が可能なムッコロボが運良く下に居なければ潰れたトマトになりかねなかったらしい。

「期待はすんな」とだけ言って、ガーフィールドさんは一旦言葉を締めた。

そういえば、ムッコロボの姿がまるっきり以前と違っていたのは
僕が寝ていた間(一日とちょっとくらい眠ってたらしい)にガーフィールドさんが
そこかしこからPSを掻き集めて製造したフレームに換装したからだとか。

…試験用に投げやりなフレームにしていたとはいえ、この変化にはちょっと混乱する。

あと、今僕が着ている服もガーフィールドさんが持っていたものだという話だ。
布一枚だけで殆ど裸だったから有難いけど…一体何処にそんな物を隠し持っていたんだろう？
基地に侵入してきた際は一見して手ぶらだったのに、今の彼には何故か荷物が山とある。

大体の情報を僕に伝えると、彼は何処にあったんだと言わんばかりの大荷物を背負って去っていった。
ムッコロボに聞くと唯のメカニックだと言うけど…僕には、とてもそれだけには見えなかった。

要するには、ガーフィールドさんの言っていた事に賭けるつもりだ。
…それ以外にも、ムッコロボにはムッコロボなりの思惑があるのかもしれないけど。

「その言葉、信じるからね。しくじったら承知しないよ？」

「具体的にはどれくらい承知しないんでしょうか」

「君をバラして亜空間にばら撒く」

「ひええ〜〜〜〜〜〜〜」