【拾玖：戻らないもの。】

「うん……大丈夫、私は、大丈夫」

記憶。
少し前に、一瞬飛び飛びになったけれど、今は安定している。
ちゃんと、覚えてる。

「ネクターの花が、散ったのが影響なのかな……」

散った花。散った花は、その瞬間力を与えてくれた。
代わりに、記憶を奪っていった？

「でも、私以外の３人は……そんな事は、無さそうだし」

同行者達。彼らも、同じ境遇の筈。
なのに、何故私だけ、記憶が飛んでいるのだろう。

違いは、妖怪である事…？

「わかんない、なあ……」

もっと他の所に、原因がある気がする。
そして、それが妙に気になる。
大した事じゃ無い、そう思うんだけど……何故か

「……何かが、引っかかる……」

思いつきで言った自分の推測に、あっさり納得されて、ちょっと慌てます。
あまり気にしないタイプなのと思い直したものの、ペースが崩れてちょっと恥ずかしそうにしてます。

分かったような、分からないような顔で、きょとんと繰り返すのです。

それに、前にひどい目に会いましたから、と、お酒反対派のムードを漂わせるのでした。

わきわきと近づかれて、慌てて後ろに逃げてから、深呼吸。
覚悟を決めたようにフードを脱いで。

フードの下の触角をだして、恥ずかしそうに言います。

この世界に来て以来、酒を勧めることはあっても勧められることには慣れてない龍だった。
戸惑った様子で応じる。

と口端をつり上げた顔で目の前の女性を見る。

しかし、伊吹とは・・・どこかで聞いた事のある響きだ。

懐にいくつかある瓢箪から大き目のものを取り出す。

と、嬉しそうに笑った。

　　　　　　　妖怪扉で有無を言わさず喫茶店へご案内。