幼少期に田畑でザリガニを採った者はいるだろうか。
大概は飼育など出来るはずもなく、儚くも命は週費されていくものだ。

子供の気まぐれで死んだ甲殻類の悪臭は筆舌に尽くしがたく、地下牢に出現した柔和な笑みを浮かべた優男にはその臭いが漂っていた。
有り体に言えば戦場の損傷した死体の悪臭は、幼少期の残忍な記憶でもあった。

つまりはそういった者なのだろう、この屍者を引き連れた司教のラズロとやらは。
だが、子供の無邪気な残忍さを発表する時間は与えてやらなかった。





……ティー　　　……　ね　……？





無様にも逃走した司教を見送り、なおも地下牢の探索を続ける俺たちの元に、声が響いていた。
否、俺たちというのは間違いかもわからない。
実際、サイもイヨルも、その声には何ら反応を示していないのだ。
彼らが全く気づかないなどという事はありえないだろう。

俺だけに聞こえているのだ。

くぐもった、どこか眠そうな抑揚に欠けたその声は、地下牢全体をゆるく振動させるように聞こえていた。
□□□□要塞や悪夢のような市街戦において、幻聴や幻覚などは幾度となく経験してきたが、明らかにそれとは違っていた。

地下牢の探索を中断し、地上に出るまで、出てからもその声は聞こえていた。
耳から入るものではなく、頭蓋を揺らし、僅かな頭痛をも引き起こす。





……サーティエイト？
君はサーティエイトだね？





それは女のような声だったが、少年に聞こえなくもなかった。
死臭の残滓が一瞬だけ立ち上り、消えた。

姿なき声はそれ以来、俺についてまわることになる。

物言わぬエンブリオに興味津々のようだ。くちぐちに質問を浴びせかけている。

身長にして1.5倍　体積にすると3倍以上はあるかと思われる巨漢を少女が見上げるている

少女は金髪に民族衣装のような装い、肩には二振りのショーテルを背負っている

少女は先ほど道を歩く男の前に飛び出してきたかと思うと挑戦的な

しかし、どこか怯えのある瞳で男を睨みつけていた

何かを思い立ったかのように男を見上げ少女は口を動かした