地下牢に散らばる骨や死体を何らかの力で動かすラズロと名乗った男。
それが自慢だったのかも知れぬが、男達の力と精神はそれらをあっと言う間に吹き飛ばした。
脆い屍を幾ら盾にした所で彼らの力を封じる事は出来ず。
そして彼らはかつては生きていたであろう屍達への慈悲などに溺れる事は無かったのだ。
いや、もしかしたら別の意味———死して尚利用されているという枷を早々に外してやりたかったのかもれない。
侵入者を阻むために用意していた策を一瞬で消し飛ばされたラズロには明らかな動揺が見て取れた。
その心を落ち着かせるように、何か祈るように胸の前で手を組む。
何事かを呟いているラズロの前に、男達の攻撃の手が届いた。
数秒遅れて、攻撃を受けて尚放ったラズロの魔法に一瞬男達は身構える。
しかしそれもほんの一瞬、容赦の無い攻撃が再開される。
僅かながらも抵抗を見せるが、用意した盾を失った司教には既に何も残っていなかった。
倒れた司教は何事か呟き逃げるように姿をくらます。
男達三人はそれに対し迫ることも、捕まえる事もしなかった。
役目を果たせず逃げ出すようなモノの末路は知っている。
そしてその様な輩を捕まえた所で、下っ端程の情報も得られぬ事を。



やがて事件は起こる。
司教を退けた後、同行者が合流しだした頃。
賽の身体に異変が生じた。
苦しげにする賽の身体から、白い、湯気のようなモノが立ち上る。
ヒトの魂を吸い上げるかのように、虚空が賽からそれを吸収するかのように。
やがて虚空だったそこには白い何かが姿を成す。
それは白く、そして透き通る素材で作られた砂時計の様で、
内部には砂の代わりに赤い液体が、その背後には昆虫の翅が3対6枚ついていた。
それは賽の様子とは対照的に、くるくると楽しげに、嬉しげに回転しながら辺りを飛び回る。

聞こえるモノには聞こえたかも知れない。
楽しそうな、耳障りな、女の嗤い声が。
ケタケタと、クスクスと、ゲラゲラと。

賽の生命力を喰らい成長し続けたエンブリオ。
賽が契約していたそのエンブリオを知っているモノはエンジェルと知っているだろう。
しかし、現れたソレは、メルンテーゼに存在するエンジェルとは何かが違った。
それは無機質で、それでいて感情的に、そして不気味に見えた。
契約者の意思と関係なく生命力を奪ったその行動は常識的でなく。
この世界の常識から外れた現象を目の当たりにする。


こうして彼女……エンジェルとされるソレは。
この世界、メルンテーゼへとその姿を顕現させた。
何か、賽個人に留まらぬ、不吉な予感をその身に孕みながら。

ぷるぷる、と犬の様に身を震わせ、髪の水気を振り払う。

湿った髪を後ろにかきあげるその表情は、普段の彼女と変わらない。

戦闘が終わって気が抜ける。それにより、誤魔化していた暑さが容赦無く彼女を襲った！

『しかし　まわりこまれてしまった！▼』