※ENo.348 トーコ＝リハウンド嬢、ENo.985 フィンヴェナハ嬢、ENo.986 花冠氏をお借りしています。
　▼サマバケ絵の大きい物がこちらになります。ENo.348 トーコ＝リハウンド嬢PL様に描いて頂きました！
　
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[SummerVacation]




双眼鏡 を買いました！（-30PS）


財布の紐も緩むが、頬も緩む。
これぞ夏、これぞ海、いざ行かん水着の楽園！



◆　　◆　　◆



〜少し前の事〜


「ねーねー、ウィル。僕、海行きたい！」


行けども行けども砂地。
ここ数日ずっとこの殺風景なヒビ割れた土地を進んでいた。


「まーた、どうして急に？」


前を歩いていたお嬢が、くるりと振り返って笑顔で訴えてくる。
確かに、数日前に水辺で悪夢を見て以来、纏まった水にはありついて居ない。


「つったってなぁ、ココから海を目指すにゃ随分回り道になっちまうぜ？」


地図を見ても、目的の森とは明後日の方向に海がある。
どうしたものかと眉根を寄せて地図と睨めっこしていると、
地図の向こう側からつまらなそうなお嬢の声が聞こえてきた。


「えー、ヤなのウィル？意外ー！」


その声は心底意外！と言う風な響きだが……


「意外ってお嬢……ん？」


（待てよ待てよ、そうか海と言えば“水着”！
　こりゃお嬢に水着を着せつつ水着のおねーちゃんを合法的に鑑賞するチャンス？）


電撃に打たれたように目が見開かれる。これだ。
そうと決まれば——


「あ、いや、行けなくはねぇな……こっちをこうで、OKOK日程的にも大丈夫だろ」


唐突に前言を翻して、胡散臭い台詞を吐く。
地図を見る目は泳いで……と言うよりも、
頭の中は既に水着のおねーちゃんと海で泳いでいるのであった。

この時気付いて居なかった。地図で遮られた向こう側では、
『ウィルってば分かりやすいなぁ』とクスクスと笑い声を押し殺すお嬢の顔があったとか……。



◆　　◆　　◆



〜海の家〜


「なぁなぁ、お嬢この水着なんてどうだ？」


ひょいっと、ハンガーに掛かった水着の群れから一つを取るとお嬢に掲げて見せる。
黒と赤の入り混じって布面積も節約された、如何にもセクシーな感じの水着だ。


「僕だと似合わないよソレ」


水着を選ぶ手を止めて顔を上げたお嬢だったが、一瞥しただけで何の躊躇も無く切り捨てた。
自分の趣味全開なので分かっては居たが、心の中で「ですよねぇ」と若干寂しく思いつつ戻す。


「やっぱ違うかぁ……お？」


水着の脇のコーナーに浮き輪やゴーグルと並んで、心惹かれる物を発見した。


『双眼鏡』


（おー、これはなかなか使えんじゃねぇの？）


ただ、これ見よがしに水着と一緒に購入するとお嬢に何を言われるか分かった物ではない。
隙を伺って見るが、水着が決まらない事には埒が開かない様だ。


（そうとなりゃ真剣に探そう……ま、俺の趣味じゃ通すのは無理か）


お嬢の好きそうな感じ……。
やはり普段の恰好や趣味から言って、こうカラフルでポップな感じが好みだろうか。


（お、これなんか悪くねぇんじゃねぇか？ばっちりヘソも出てるし）


「んじゃコレとかどうよ？」


手に取った水着をハンガーごと掲げて振って見せる。
……これならどうだ。


「あ。カワイイ！ね、ちょっと見せて」


なかなかの好感触。
水着を手に取ると何やらタグの表記やらを一生懸命見ているようだ。


「おぅ、俺にしちゃ上出来だったか？気になんなら試着して来たらどうだい？」

「……俺は自分の物見てるから」


ついポロッと口が滑りかけたが、そう言いつつ店の奥の試着室を顎で示す。


「うん、着てくるー！」


お嬢はそう言うと水着を抱えてサッサと試着室の方へ……勝負は今だ。
先程の双眼鏡が置いてあったコーナーへ後ろを気にしつつも歩み寄る。


「ん？」


手に取って見たものの値札が無い。
多少ヘソクリのPSがあるとは言え、流石に値段の分からない物に手を出し辛い。
仕方なくキョロキョロ辺りを見回すと、店員らしき男性を見つけたので声を掛けて見る。


「おーい、ちょっとそこのお兄ちゃん」


手でメガホンを作って指向性を持たせた小声で呼び掛ける。
どうやらその声は届いた様で、こちらに気付いた店員さんが寄って来てくれた。


「はい？いかがなされましたかお客さま？」


「しーっ！声ッ声ッ」


つい、試着室の方を振り返ってから店員さんにトーンを落とすようにジェスチャで求める。
訝しげな顔をされたが今はそんな事に構っていられない。
素早く双眼鏡を手に取ると本題を切り出した。


「これ、値札ねぇんだけど幾らすんだ？」


「あ、こちらですねー、30PSとなっております！」


「声でけぇッて」


店員さんに何の落ち度もないのだが、つい声を荒げてしまった。
が、止むを得ない。戦況は一刻を争うのだ。


「……あぁ、すまんOK分かったよ30PSな？」


再び試着室を確認してから、自分の財布を漁って30PSを取り出そうと——


「ねー、ウィルーどうかな？」


——お嬢の声。
思わずビクンと肩が跳ねた。
その焦燥感は、さながら敵陣で作戦失敗を悟った時のそれに近い。
その瞬間に30PSを店員さんの手に握らせて、双眼鏡を背中側に隠す。
まだだ、まだ大丈夫だ。


「あ、あのお客さま……」


「これで頼む！それ代金なっ」


要領を得ない店員さんに申し訳ないと思いつつも、代金を押し付けて双眼鏡を死守する。


「ウィールーってばー」


お嬢の声に訝しむ様な響きが混じったので、慌てて振り返った。
試着室のカーテンから顔を覗かせて首を傾げるお嬢。


「い、いいいんじゃないかな！ヘソ、あ、いや、可愛くて似合ってると思うぜぇ！？」


実際お嬢の水着はとても良く似合っていたのだが、
背中に隠した双眼鏡のせいで上手く褒め言葉が出てこなかったのであった。



双眼鏡 を買いました！（-30PS）



◆　　◆　　◆



〜浜辺にて〜


「いやぁ、たまには息抜きも必要ねぇ」


焼け付く日差し、青い海、ゆらゆらと昇る紫煙。
覗く視界には凡そ普段の一揆とはかけ離れた楽園が広がっている。


「ヒュー、いいねいいねぇ」


海の家の喫煙所で、柵に凭れ掛かりながら一服の真っ最中。
煙草用の防水ケースはあるが、ビーチで吸う訳にもいかない。
自分達用のパラソルとレジャーシートを設置し終えて……


「花冠のヤツまだお地蔵さんしてんのか……」


色とりどりの水着、開いた胸元、揺れるお尻、陽光に晒されたヘソ。
自分の欲望に実に忠実に双眼鏡で眺めている最中に、自分達のパラソルが目に止まった。

そう、海に来る途中にお嬢が花冠とフィンを見つけて拉致って来たのだ。
フィンはノリノリであったが、花冠はと言えば相変わらず無言のまま引っ張ってこられたのである。

その花冠はパラソルの日陰で笠を外している物の体育座りの姿勢でずっと動いていない……。
一方、お嬢とフィンは水着ではしゃぎながら「ビーチバレー対決！」とボールを手に遊びに行った模様。


「おーぅ、やってるやってる」


双眼鏡でビーチを探すと、キャッキャと戯れている二人組みを発見した。
ただ、叩きこまれるボールの速度が尋常じゃ無い気がするが、それは見ない振り。


「んー二人とも可愛いねぇ、重畳重畳……おっと」


随分短くなった煙草を傍らの灰皿に煙草を押し付けて潰すと、再び双眼鏡を装着。
口角を緩めながら、ビーチに隈なく視線を走らせる。


「観測手ってなぁ良い仕事だねぇ」


本来、狙撃兵は二人一組で行動するものであり、
銃を撃つ射手と目標との距離を計り修正して射手に伝える観測手で構成される。
愛用しているDragunovも狙撃銃であるが、普通の狙撃銃とは役割が異なるのだ。
部隊に付随し、部隊のメインウェポンでは狙えない、届かない射程の敵を排除……
つまり、分隊支援火器として配置されるのである。

スナイパーではなくマークスマン。
そうなると観測手は付かず狙撃も一人で行う事になる為、
Dragunovのスコープには一人での運用を想定して、
レンジファインダーで距離の計算がしやすい様工夫されていたりする。


「どっかに、オイル塗らせてくれるおねーちゃんはいませんかねぇ……おぉ！？」


サーチしている最中になんとも好みのボディを発見して思わず声を上げる。
双眼鏡の倍率をあげれば良いのだが、つい柵から身を乗り出して——


「あ！ウィル危ない！」


お嬢の声が一際大きく聞こえた。


「え……？」


咄嗟に双眼鏡を構えたまま声のした方を振り返ると、
双眼鏡の視界一杯に拡がるナイスボディ……いや、眼前に迫るボールだ。


「おわ！？」


バキョッ！！


尋常ならざる力で打ち出されてこちらへ向かってきたボール。
認識した瞬間、つい双眼鏡を持った手で対ボール防御姿勢を取ったのが運の尽き……——



◆　　◆　　◆　



「大丈夫だった？」


駆け寄ったトーコ嬢が目にした物は……
自分の身代わりに弾を受けた戦友。
つまるところ、ひしゃげてレンズの割れた双眼鏡。
突っ伏してその戦友の最期を看取る情けない兵士の姿が、そこにはあった。


こうして、ウィルの30PS——いや、息抜きは終わりを告げたのである。

あっけらかんとしたウィルの返事には、小さく溜め息を一つ吐き。

ウィルがヘソを指差せば、サッと手で覆い隠してみせる。

暫し目を細めて、首を回す。
僅かであるが、先程までの態度も解れ、振る舞いも緩やかになりつつある。

そのまま親指を花冠へと向け、指し示しながら小さく首を捻って見せる。

　彼の申し出に、ぱちりと目を瞬かせた。
　誰かに手伝ってもらう、と言う発想が、無かったらしく。

　口をつくのは遠慮の言葉だったが、『家訓』について聞けば、くすりと笑った。

　そう彼に名を問うて、それから、『おじさま』についての特徴を挙げる。

　それから、返された言葉に、小さく首を傾いだ。

　そう言うものの、エンブリオはコトカの近くには見当たらない。
　もしもエンブリオの気配に敏かったら、彼女の直ぐ傍に、
　シルフのエンブリオが風に紛れていることが分かるかもしれないが。

　付け加えた言葉は、少し複雑そうだった。