（ENo.348 トーコ＝リハウンド嬢との交換日記になります。）

--------------------------------------------------------------------------------------------
date
　9/1
weather
　曇り

・身長とか
　なるほどね、確かにお嬢みたいに服が好きだとサイズ的な物が一番か。
　男ってのはちっぽけなプライドの生き物でね……結構身長とか気にしちゃうのよね。
　確かに背が高かった。止めようお嬢、身長の話は書いてて涙が出そうだ。

・そう言えば　
　練習試合と言えば今日はまた花冠とフィンちゃんと手合わせだっけ？
　今日は同行者も増えるし賑やかな事は良い事だ。頑張ろう。

・海だった！
　お嬢が喜んでくれたなら、寄り道したかいもあったと言う物だ。
　俺もなかなか良い目の保養になったよ。
　短い間だったが、水着のおねーちゃんもおヘソも沢山見れて幸せだったよ。
　勿論お嬢のおヘソも拝見させてもらったぜ！

　……ちょっと双眼鏡の件はもう暫く傷が癒えるまで放っておいてくれ。
　
　それにしても、ビーチバレーってあんなに玉の速いスポーツだったろうか……？
　お嬢は少し日に焼けてたみたいだが、今頃日焼けで痛かったり痒くなったりしてないかい？
　
　もう少し余裕があったら、夜の花火も連れてってやりたかったが、勘弁してくれ。
　今日から森を抜けるし、森林浴でも楽しんで行こう。
　
　そうそう、一緒に森を抜ける約束してる子はお嬢と年の頃も近いと思う。
　仲良く行けるといいな。今晩はゆっくり寝て、明日からに備えよう。

today's special！
　
　　（歪んで壊れた双眼鏡らしき絵が描き殴ってある）



--------------------------------------------------------------------------------------------



静かにペンの背をノックして仕舞い、ブックマーカーを挟んで日記帳を閉じる。

ゆっくりと、首の筋を伸ばすように見上げれば、
木々に覆われて狭くなった星空。ここは既に森の入り口だ。

首を回して解しながら視線を地上へと戻せば、
野宿にも大分慣れてきたのだろうか、静かに寝息を立てる少女。

今日は昼間から、一日はしゃぎ回って疲れたのだろう。
ランタンの明かりを受けて丸まった背中は、
規則的に上下こそするが、寝入った体勢のまま動かない。

そう言う自分も、歳甲斐もなく遊んでしまった。
最初は戸惑いだらけだったこの依頼も、不思議と楽しくなってきた。
それも、この少女と一緒に居ると、元気を貰える気がするからだ。

小さく口角を上げて笑みを浮かべる。

そろそろ夜も更けてきた。
明日はまた、この少女とどんな出来事を経験するのだろうか。

そんな事を考えている内に、ランタンの明かりが滲んで広がり……

うとうとと、うとうとと——


……………………
……………
………
…
・
・
・


「おい！そっちゃあどうだ、ヒルテンベルガー！？」


咽返るような血臭、何かが焦げた臭い、飛び回る蝿、あちこちで上がる煙。
そこは正に、地獄のような光景が広がっていた。


「だめだぁ！こっちにゃ分かりそうなのが居ねぇ！」


ここは既に戦場ではない。
全てが終わって、全てが駆逐された跡だ。

砲弾の炸裂で、不自然に盛り上がった地形を踏み締めて歩く。
散らばっているのは瓦礫、誰かの装備、そして誰かだった——


「くっそ、誰だよ！誰がこんなにしたんだよ畜生ッ！！」


目尻にうっすらと涙を浮かべ、呪詛のように悪態をつきながら、
その凄惨な跡地を手分けして歩き回る。
今、自分達がしているのは、戦死者の確認。


『なーに、軽くこなしてくるさ！』


そう言って、肩を叩いて出て行った奴等だ。
今朝まで、今朝までアレだけ陽気に……


「っうぐ……」


込み上げて来る吐き気。
何度見ても慣れない光景。


「……畜生、畜生……！」


顔が少しでも確認できる奴はまだいい。
それすら分からない兵士は、ドッグタグを確認して回る。
他にも、装備やいつも下げてるキーホルダー等々……。

煤けた瓦礫を踏み超えると、うつ伏せに倒れた兵士が転がっていた。
何処かで見た事のある……。


「おい……お前、は！？」


足元に気を付けて駆け寄る。
顔を確認しようと、肩に手を掛けてひっくり返した。


「うっ」


思わず呻き声を漏らした。
背中側は綺麗だったが……
その前面は爆風をまともに受けたのだろう、
判別できる物ではなかった。

焼けた首元に黒く煤けた金属片。
かろうじてドッグタグだけは残っていたようだ。


「……」


手に取った楕円型のドックタグの表面を、
親指で撫でて汚れを拭き取る……。

そこに刻まれていたのは——


焼けたその顔がニヤリと笑った。



・
・
・
…
………
……………
……………………



「——！？」


はっ、と目を見開くと、そこは夜更けの森の中。
ランタンの明かり。
小さな虫がぶつかっては離れ、小さな音を立てている。

夢、夢には違いないが、あまり思い出したくない光景だ。
それに、最後のは……




　　　　　　　　　　　　　スル……




シャツの中で違和感。
そして、腹部に冷たい感触。


「ん？」


慌てて首筋に手をやると、そこに紐が無い。
シャツのボタンの隙間から指を入れ、ベルトの上を探る。


「嫌な感じだねぇ」


そこには、いつも首に掛けているドッグタグ。
取り出して見れば、結び目はそのままだが、
革紐が途中で切れてしまっている。

そして夢の中でしたのと同じ様に、
その外れたドッグタグの表面を、
ゆっくりと親指で撫でる——

子狐はミハウの肩の上で、二人を眺めている。

別に嫌そうとかそんなことはない。
果てしなく真顔なだけである。

それだけのことだ、と片付けて、詮索されぬなら語ることもない。

ただ、そう一言付け加えた。

嫌いだったか、と問われれば、いや、と一度首を振って。