強めにつかまれ一瞬びくっとふるわせるが特に逃げようとすることもなく手に収まっている
その尻尾の主もそのつかんでる相手の頭を嗅いでいるのでおあいこかもしれない

なんとなく頭をなでなで、少し混ざっている花びらの破片なんかを軽くはらいながら

　じゃれつく少女を眺め、楽しそうに尻尾を躍らせた。
　何事にも全力でぶつかっていく姿が、とても微笑ましい。

　ぐりぐりと頭を撫でてやる。
　天性の性格なのか、リオンの導きの賜物なのか、きっとその両方なのだろう。

　小さな手を取り、しっとり濡れた柔布で拭う。
　触感を得ることで、体温や実体の有無を探る目的もあったが——
　ただ反応で判るのは、本当に彼女は何も覚えていなさそうだ、ということだった。

　狐は、少女との出会いを語る。
　伝え聞いた話も混ぜ、丁寧に、女の子がどんなことに興味をもち、寂しい世界で生きてきたかを話す。
　もちろん知っていることだけしか話せなかったけれど、物語の蒐集を趣味とする狐の語り口は滑らかだった。

　一息をついて。

　幼子相手に難しいことを口にした自覚はある。
　でも、かすかにでも心に残っていてくれれば、何かが変わるかもしれないと。
　狐は、愛おしそうに目を細めた。

初心者向けのところからやると言うからには、少女なりにいろいろ調べてみたのだろう。
この前まで人見知りをして僕の後ろの隠れていたのにいつの間にこんな計画を立てていたのだろう、と嬉しいながらも少し寂しさの混じったため息をつき。

少女の頭に手を乗せるとくすくすと笑って愛おしそうに撫で。

今だってこうしてお話してるでしょうという少女の言葉にあいまいに微笑んでそう返し。
今こうして話しているからといって明日も話せる保障なんてないんだよジュリ、と心の中で密かに呟く。

語尾を濁した少女にもう一度念を押し。

本当はどこにもやらずにこのまま自分の傍にいてくれたらとは思う。
しかし少女が興味津々であちこち飛び回っている姿がとても生き生きとして楽しそうに見えたから。
自分も研究所の外へ出てからいろいろ見たり体験したがった覚えがあるだけに、強く反対はしきれなかった。

掴み返すように身体に抱きつく少女の小さな身体をしばらくぎゅっと抱きしめた後に離す。