「ん〜……」

アイサは書類を見つつ首を傾げる。

王政継続を望む人間の集まりは、すこぶる悪い。
が、それでも目処はたってきた。

王政が無くなれば職を失うであろう人々。
王室ご用達の看板を掲げた職人、宮廷料理人、そして後宮の女たち。
何より大きいのは、官僚たちの協力を取り付けた事だ。
官僚にとって、何よりも大事なのは国の運営と己の保身。
共和制の国の形がまだ見えぬ以上、そこに慎重になるのは当然だ。
しかし、それも全幅の信頼を置けるわけではない。
もし共和制が彼らを存続させその利権を保証するのなら、彼らの掌は簡単に翻るだろう。

そして何よりも。

「クラウス商会もダメ、アマーリア商会も返答無し、ですかぁ」

そう、肝心の商人たちが乗ってこない。
経済を回す彼らの協力がなければ、王政を維持する事などとても出来ない。
王室官僚たちに根回しを任せているが、それでも返答は決まってひとつだ。

「誰が次の王になるのか？」

これが決まらなくては、商人たちの財布の紐を緩ませる事などとても出来ないだろう。

「ま、そちらは私が直々に出向くとして……」

当座の資金の確保。これをしなければならない。
アイサは手紙を書き始めた。あて先は、商人達——の、妻。

「有能な男ほど、ある共通の弱点を抱える——それは、忙しすぎて、妻の相手が疎かになる」

そして自分は占星術師。
男に見捨てられた女が頼るのは、霊媒か占いと相場が決まっている。
さらに有能な男は、それが自分の商売に障るものでない限り、ある程度の贅沢を妻に許すものだ。

「当座の資金はこれで何とかなりますか〜」

まったく、王政維持も楽ではない。