元素の世界、メルンテーゼ。
その奥底、深い深い闇の底に、蠢く影が二つ。


「戻ったか、スネーク。」
「そのネタはもう良いです、ボス。」


黒衣を纏った二人の男。その内の若い方が、ピシャリと言い放つ。
もう1人、中年で小太りの男はにへらと笑い、表情を緩めた。


「ところでライン君、長い休暇は楽しんでもらえたかな。」
「何が休暇なものですか、来る任務に備えての潜伏期間です。」
「またまたぁ。そんな事言ってホントはのんびり女の子生活楽しんでたんじゃない？」
「そそそそそ、そんな事ありまひぇんよっ！？」


しどろもどろな様子で手と首を振る、若い男。
黒閃の雷蛇—ライン。
王に仕える執行者たる彼は、任務の失敗により農場に収容されていた。
何とか出る事は出来たものの、戦力の増強に暫く時間を要したのも事実だ。

——その間、日がな1日女装して過ごすハメになった事も事実である。

魔法少女—ライネ・スパークル。
それは彼が一般人に紛れて生活する為に与えられたもう一つの姿だ。

何故女装なのか、何故魔法少女なのか。
それは今目の前に居る小太りの男——見た目に反して組織のボスである——からの命令であり、決して彼の趣味ではないことを強く明記しておく。

………ただし、そんな女装生活に少しずつ染まりつつある自身から、ラインは必死に目を逸らしていた。
そんな彼の様子を見透かしたように、ボスが穏やかな笑みを浮かべた。


「何なら、このままライネちゃんとして暮らしてくれても良かったんだけどねぇ。」
「冗談はよして下さい、私は組織の執行者です。この生き方しかできません。」
「………そっか、そうだねぇ。」


またボスお得意の冗談か、と溜息混じりにラインは応える。
しかしボスは目を細めて静かに俯くだけだった。


「……ボス？」


キョトンとした表情を浮かべて首をかしげ、ラインはボスの様子を伺った。
——ちなみにこの仕草は女装生活の中で自然と身に付いた”可愛い仕草”の一つであり、無意識に使用してしまう程染み込んでいるのだが、その話はまぁ置いておこう。

とにかく、そんなラインを見てボスは呟くのだ。


「……萌えー。」


直後、ラインの鉄拳が炸裂した——


…

……

………


「——すみませんすみませんっ、手が勝手に動きまして！」
「いやぁ、良いよ良いよ。可愛い子に殴られるなんてご褒美だしねぇ、うへへ…。」
「か、可愛いだなんて、そんなぁ〜…——っていや、本当にすみませんボス！」


鉄拳制裁を加えた直後、ラインはジャンピング土下座で地に伏し、平謝りを続けていた。
組織にとって上下関係は絶対、ましてやそのトップを殴るなど言語道断だ。
ボスがその気ならすぐさま斬り殺されても当然、ラインもそれは重々承知していた。

だと言うのに、このボスのセクハラ発言を受けると時折手が出てしまう。
殴る瞬間は決して嫌な気分ではない、しかし殴った直後に凄まじい後悔と恐怖が湧き上がって来るのだ。
組織の執行者として厳しい訓練を受けてきたと言うのに、このメンタルの弱さは何なのか。
ライネ・スパークルとしての生活を始めてからは特にその傾向が強い。……それともボスのセクハラ発言が多いからか？


「ほら、もう良いからね？だから次は女装姿で殴ってください是非。」
「イヤですよっ！？」


ボスは気にも止めずに、へらへら笑って鼻にティッシュを詰めている。
そんな姿を確認し、ラインもようやく顔を上げた。
ゆっくりと起き上がり、恐る恐る声を掛ける。


「…あの、ボス。そろそろ任務の方に出てきますので。」
「あ、うん、気をつけてねー。」
「…はい、失礼します。」


しょんぼりと肩を落として、その場を後にするライン。
そんな彼を見送って、ボスも小さく息を吐いた。


「大分変わったと思ったんだどなー、まだ足りないんだねぇ…。」


何処とも知れぬ闇の中、1人残った黒い影が口元をにやりと歪める。


「もう一押し、必要かもねぇ。」


誰に聞かれる事も無く、その呟きは闇の中へと消えていった——

▼黒閃の雷蛇の行動！

パワーストーン・スローイング！！
　　ルリアンナのキャッチ！
　　ルリアンナが次に受けるPSを100%押収！

ルリアンナに1のPS！

　　ルリアンナのお礼参り！
　　　　黒閃の雷蛇に1PS分のプレゼント！
　　　　黒閃の雷蛇に屈辱を付加！