＜エンブリオ＞ikki15.5

　言葉には、力がある。
　たとえば「死ね」という言葉を言われれば、本当に死ぬことがないとしても嫌な気分になるし、複数の人間から連日「死ね」と言われつづけたら、心を病んで命を絶つ者だっているだろう。
　それ程までに、言葉の力は強く、意味を持つ。
　故に、それは生物につけられる名前も例外ではなく。

———名前には、力が宿る。



メイド と解約しました！



　がつ、がつ、がつ、がつ、がつ。
　深夜、嵐のような宴が終わり、皆が寝静まった夜。
　テントを張った場所からそれなりの距離を隔てた場所で、その音は響いていた。
「食欲旺盛にも程があるわね……」
　皆の寝床までこの音が届くとは思えないが、念には念を入れるべきだろう。少女人形はそう考えて、音を発する者へと注意する。
「——————」
　果たして、音の主は、不満を訴えながらも一応は従ったらしい。先ほどよりは大人しめの音となった。
「思った通り、魔術書の支配下にあるエンブリオならば、この子に敵はいない」
　名前には、力が宿る。それは魔術というルールの中でも例外はなく、中には本名を知られれば魔術師にとって致命的であると主張する書も存在する。
　それは、名前を知られることによって自らの由来が知られ、対策が取られるという意味も含まれているのだろうとアンリエットは推測する。
　如何に強力な力でも、タネがわかれば怖くない。そういう力はいくらでもあるからだ。
　だが、誇示することによって力を発揮するものもあると、アンリエットは考える。
　実際、今身を貪られているメイドのエンブリオは、その力を発揮した結果であるといってもいいだろう。“彼女”の前に、この用済みとなったエンブリオは抵抗する術もなく倒され、正視に耐えがたい姿をさらしていた。
「……これで、次の準備は整った」
　少女人形は呟き、空を見上げる。
　雲一つない暗黒の空の中で、星々がぽつぽつと輝いている。
　見飽きる程眺めて、何の感慨も抱いてこなかった光景。
　これを眺めるたびに、少女は自身が人形であることを思い知らされ———しかし、その感想でさえ、感傷の域には至らないものであると自覚している。
「いつか、目的を果たしたとして———これとは違う感想を抱ける日が来るのかしらね」
　たとえば、綺麗だとか。たとえば、何もなくてつまらないだとか。
　そんな、ありきたりで、稀有な感想を言うことが出来るようになる日が来るのだろうか。

　……答える者がいる筈もなく。少女人形は小さく肩を竦めた。

「……そろそろ戻るわよ、アルマロス。気取られてはうまくない」
「むしゃむしゃ……もうちょっとで食べ終わるから待ってー」

気付かれない程度に小さく、溜息をつく。
【逸脱した】魔書であろうと　【記された】魔術書　であろうと変わりなく
適当に注意を逸らしたら別れる。　それだけだ。
　　　　　　　　　　　　 ・・・・
……狩る対象として不適切という事。

制御できてない上に自立意思があるとくればそれはもう【首輪のない猛獣】と変わりない。
いつ”手を噛まれても”おかしくない。

まあ、彼が生きているということは『友好』か『有用』のどちらかの関係はあるが。

一言。
かつ、他人に依存した答え。

理由とした理由でもなく、追求の意味も無い答え。
これなら簡単にされるだろう。と選び置き土産の様にそう返した。


「さて、邪魔したな。　早いところ此処らは抜けておきな」

そう言って、ゆっくりと踵を返す。

　語る過去に共感し、顔色を赤に白にめまぐるしく変える少年を、微笑ましく観る。
　生来、感情の豊かな子なのだろう。——表現すべき場所を見失っているだけで。

　久しぶりに思いだした、非道であった主の姿を思い出して懐かしそうに目を細める。
　もはや過去は遠い追憶の中。いまさら恨む心も残ってはいない。

　おずおずと話し始めたエルの言葉を、薄い微笑みで、されど静かに受け止めて。

　やがて、口を開いた。澱みなく、本心から不思議に思い。

　許されるならば、少年の手を取り、包み込むように握りしめるだろう。

しっぽがだらんと下がっている。リラックスしているようだ。

話が変わり、ほっとしている様だ

ルリアンナさんの話を聞いて

医療品を手渡されると、嬉しそうに笑った。

自分が怪我したときにも、という言葉に首をかしげた。

自分でも試したい、という気持ちがあったらしい。
少し残念そうにしている。

ドールの少女の言葉を受けて、ドールではなく、あなたの顔を見ながら明るく言った。

そして、考え、思い出すように、ぽつぽつと話が始まる。

主人のことなのにさして興味もないといった風に、サラマンダーは火を吐いた。

どこまで説明したらいいものか、段々と収集がつかなくなってきたようだ。