その声は遠く、懐かしく、

胸に突き刺さる感情だけを遺して、私の背後へと通り抜けていきました。
過去の幻覚に言葉は届くことはなく、私の言葉もまた、金の髪をした彼女の向こうへ、通り抜けていきました。

声がぶつかるのは、細密な装飾の施された豪奢な一室の壁。
いつのまにか調度品に包まれた、寝室に私たちはいました。
金か真鍮で飾られた、白く塗られた家具に、毛足の長い絨毯。花と、まだ淹れたばかりのお茶の香りがあります。

金の髪をした彼女を、私はアナと呼んでいました。アナの持つ白い肌とその髪は、その貴族らしく設えた部屋を飾る一つに相応しい美しさで、動作のたびに金糸の揺れる様は、いまにもきらきらと音を立てるようでした。

その返答は幻覚だったのか、私が自発的にしたことなのか。
それすらも曖昧なままに、言葉が続きます。

私は頷きました。身体が随分と身軽なのは、その身を守っていた重たい鎧も兜も今はないからでしょう。
シルクで出来たエプロンドレスに、頭を飾るのはヘッドドレス。この館に仕える人間と同じ、給仕の装いです。

カップを口へ運ぼうとする手を止めて、彼女はいいます。

彼女は私に優しく微笑みかけたのちに一口紅茶を飲み、そのカップを受け皿に置くと、うす紅色の爪を載せたその指で私の髪に触れます。整えられた髪をなぞるように、優しく撫でるその感覚は、どうしようもなく温かいものでした。

弱々しく笑う。

抵抗の弱さに態度をやさしくする。押さえつけるポーズはそのままに、言い訳する余地を残しながら。

そうしてフィリーの体を完全に地に倒すと、強引に、しかしゆっくりとやさしく唇を重ねた。
止まらない蜜事が始まっていく……。