多くのものは、変容していきます。

　私が意識を取り戻してから拠り所にしていた律法騎士団もまた、アトラさんの元に４人が集まってから、大いに変わっていったように、思います。あの日の私は、何も知らない、しかし純粋な盾でした。初めて兵を殺した日から、内に秘めるものの意味を知りました。

　自分自身のこともそうですし、仲間のことも、何も知りませんでした。
　アトラさんは厳格で、目的のために私を雇用したのは事実でしょう。私が役立っていたから、これまでその傍にいることが出来たのも、事実でしょう。けれど、そればかりではない優しさと、何か揺れ動くものが、彼女には、あるように思います。私にはまだ、盾となり、剣——いえ、斧となり、戦いを切り開くことしか、出来ません。それだけしか。

　ネムちゃんとは初めから親しくて、私達は仲良しでした。その関係性は今でも変わりません。数多のツルに抱かれてお昼寝をしたり、一緒にごはんを食べたり、水浴びをしたりしています。同じ前衛として、お互いをかばい合ったりもしています。
　彼女の抱いていた人間への憎悪も、いつのまにか和らいでいることを知っています。私が、衝動に駆られ、地を蹴って飛び出すその一方で、どこか躊躇いがあるのを、その横で感じてきました。彼女は饒舌ではないけれど、そのツルの先から、視線から、感情を察することが出来るくらいには、私とネムちゃんは繋がりがあります。優しい、慈しみと、どこか自らを責めるような何かを、私は確かに感じます。

　伯爵は、今や律法騎士団の食事を、完全に任されて、毎日美味しい料理を提供してくれます。今思えば、彼女は野生の動物のようでした。彼女は親しく、人なつっこいようで、しかしそこに表面や、その場だけのやり取りでしかなかったと、今になって思います。いつだって生き残ることを最優先に考え、戦いを避け、立場をとっていました。そのときの彼女、あるいは、それ以前から、きっと大きな何か、そう、それは自然だとか、環境だとかに対して……ただの、全くの弱者であったように思えます。今だって、特段に彼女が強いわけじゃありません。けれど、ただ逃げて回るだけの彼女は、進んで何かをつかみ取るような、そんな熱意を、今や帯びているように、私は思えます。だからきっとあの時、彼女は戦いに挑んだのでしょう。

　リナリアさんは、未だに、よく分からないところがあります。どれが本当のリナリアさんなのか、分からないのです。私達と、まるで普通の……いや、ちょっと変わっていますけれど、一人の女の子のように関わるときもあれば、恐ろしい何かの渦巻いた感情を、ふとその横顔の抱いていることもあります。一つ言えるのは、そのことも、初めは私は知りませんでした。何か変わった雰囲気がある、ということしか、その初対面では見出せていなかった。
　それに、リナリアさんが倒れ、ネムちゃんに担がれている間、ベッドに寝かされている間、足りない空気を補おうと、熱を帯びて火照った体をさまそうと、その細い身体の全体を使って、酷く乱れた呼吸をしているその様のか弱さは、きっと嘘じゃない。

　アトラさんの意志を中心に、私達は集まっています。
　初めは、お互いを利用するためだったかもしれません。今だって、それはあるでしょう。
　けれど、それだけではない——ただ、それを情だと呼んでしまうことも、出来るでしょうけれど、何か——そう、何か、深い悲しみのようなものがあって……それをかばい合うように、私達は、ここにいるような気がします。期待をせず、ただ、身体から発する温度を、感じ合えるだけの距離で。

歯軋りを立てながら左手で耳を塞ぎ、蹲る。
10秒ののちに体勢を立て直す。

「……いいことを教えてあげる。私はそれがどうやらとても上手いんだ」

たぶん自分に問いかけている。同じ人ではない姿をしているから

言う直前で止まる。今感情的になって話をしていたが、自分の目的を思い出す。