花。

黒い花。

それが一面に咲く様は、まるで夜を足下にしたようでした。
花畑であるのに、それは王の広庭とは異なり、まるで鮮やかではありません。

その花を見たのは初めてでした。それは確かに言えることです。
恐らく記憶が欠落する以前でも、見たことはないでしょう。根拠のない、しかし確信がありました。

けれど、何故か私はそれが——。
その花の色が、私はとても気に掛かりました。宿命的な再会を果たしたかのように、その色は……。

その黒い花の園を行く道を、私は歩きます。
心をかきたてるのは黒い花々だけではなく、その園そのものがわずかに荒んでいました。
初めから荒んでいる花畑など、きっとありやしないでしょう。
春夏はいつか過ぎ去るように、日は沈み、夜は訪れるように、恐らく栄華は立ち退いた後。

けれど、それは奇妙に美しいのでした。

私は、黒の中に、白い——そう、夜の水面に映る月のような——白髪の男性を見つけます。


　＊　＊　＊

埃っぽい兵舎の廊下から、少し開けた所へ出ると、彼らはいました。
リーダー格の眼帯の男性に、武装を施した兵士達。
その数は、私達の倍以上。

ドキドキしました。

鉄の鎧の軋む音、声。殺気。引き抜かれたいくつもの刃。

ラケルト隊長と呼ばれる眼帯の男は、確かにその実力を肌で感じさせます。
感じるのは、軽さ、鋭さ。何者にも捕らえることのできない、追いつくことのできない。
それはまるで野生の猫を想起させました。あるいは、閃く銀の切っ先を。

だから、だからこそ私は、きっとこんなにも気持ちが高ぶるのでしょう。

　
　　　　　 少し考えるように俯いて、改めてそちらを向いた。
　　　　　　 炎を嗅いだときのような匂いは、今は消えている。

　
　　　　　 少し間を置き、フィリーの目を正面から見据えた。

　

　
　　　　　 過去にもそんな笑みを浮かべた経験があるかのように、にやり、と笑った。

困った顔を一瞬浮かべる。

兵舎の中を歩いているとサッと隠れる人影を見つける。

その人影は顔を出し、気がつかれたのが分かるとゆっくりと出てくる。

銀色の髪の少女サニーであることは分かるが、近づいてはこない

遠くで表情はあまりよく分からないが、こちらに目線を合わさないようにしているのは分かる。