regret　【名】
──残念、遺憾、後悔、悔恨


----------------------------------day 9----------------------------------


「そういえば、貴様はあまり自分のことを語らない奴だったな」


アトラは、そう、私に言った。

確かに私は自分のことを語らない。
語る必要がないから。
語るべきではないから。

己が目的を隠し、他者を利用し、混沌を満たすのが私の役回り。
故に、自分に関する情報は伏せなければいけない。



「良ければ教えてくれないか？貴様が従う律法を……」


続けて、問いかけられた。

私はこいつらに取り入るために、秩序を守ることを目的と偽って近づいた。
私の従う律法……また面倒な質問を。
当然、私が従うのは混沌であり律法ではない。故に、この問に対する正当は持ちあわせていない。


悟られないよう一瞬だけ考え、適当な答えを返そうとして──


プツッ


──頭の中に、ノイズのような音が、聞こえた、気がした。




「私が従う律法はね、一言で表せば……そう、"後悔"かな。」
「誰かが定めたわけではない、私自身の固有の価値観だけどね。」
「人は放っておけばどんどん混沌へと流れていく脆い存在なの。」
「だから、秩序を守るためにはそれを律する手段が必要。」
「もちろん外圧によって無理やり律するのは一つの手だと思う。」
「でも、効率的ではないし、やがては律する側も混沌に飲まれてしまうかもしれない。」
「ではどうするか。答えは簡単で、内圧によって律することができればいい。」
「それを実現するための基準は色々あるけど、私は"後悔"こそが己を律すると考えてる。」
「己が行為を、過ちを、罪を、混沌を、それによって引き起こされた結果を直視して"後悔"したとき、人は己を律することができる。」
「もちろん、自発的にそれが出来る人は少ない。稀に存在しても、長くはもたない。」


「だから、私が刻み込んであげるの。忘れようがない、永遠の、"後悔"という法を」





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私達は順調に兵舎を進んでいた。
道中、どうみても外の奴より凶悪な魔物が何匹も出てきたが、力を得た私達の敵ではなかった。

……何だろう、何かそこそこ重要な話をしていたような気がするのだが。

何かを失った感覚、何かを忘れた感覚、そんなものが私の中にあるような気がして歩みが止まる。
──そして、それと同時に前方から複数人の足音が聞こえてきた。


1、2、3、4……よくわからない。結構な人数がこちらへと走ってきているようだ。

間もなく、その足音の正体が通路を進んだ先の角から現れた。
兵舎なのに魔物しか居ないのは一体どういうことなのかと思っていたが、ここにきて初めて兵士らしい兵士達だ。
人数は9。リーダーっぽいのと雑魚っぽいのが8人。

成程、これはこれはそこそこ愉しめそうだ。



先ほどまで感じていた違和感を忘れ、私は目の前の獲物へと喰らいついた